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「#エロ」のBL小説を読む
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 昨晩。ぼくはシャーッと車が走る音で目を覚ました。電気をつけて時計を見ると、まだ朝の2時すぎ。眠れない……
 ふと、いつのまにか隣に居ない『人』のことを思う。あいつ、また寝たふりしてどこかに向かったらしい。寝室から起きあがり、そいつの後を追うことにした。
「やれやれ」
心配、というほどではない。ちょっとだけ眠れないだけだ。何処にいるか、心当たりはあるんだし。
 着のみ着のままカンテラを片手に庭へ向かう。ドアを開けてすぐに目的は達成されていた。
 そいつは玄関の踊り場のすぐ脇、庭の片隅でタヌキらしい生き物の腹を割いているところだったのである。
……やっぱり。
まつりは何かあるとよく、無邪気になにかを捌いている。
 昨晩の、ヒキガエルをわし掴みで火に投げ入れる遊びもなかなかのものだったがタヌキもなかなかすがすがしく凄惨につぶれていたのを思い出してちょっとだけ目眩がした。
「汚く、ないのか?」
なんてことだ。
また、不愉快になったまつりに
気を利かせてやれなかったなんて。
目眩がする。
「汚いよ。先週のオオカミよりマシだよ。あれはバラバラにするの大変だったからね」
ふうん。ぼくの感想は、まぁそのくらい。
「写真、たくさん撮っちゃった!」
「うん……」
嬉しそうに、死骸を喜ぶまつりは、嬉しそうに、今ではそれをぼくにだけ見せてくれる。
「あれ? ななと、パジャマだね、風邪引くよ」
改めて、ご主人様の趣味は生き物の解体。ぼくの趣味はそんな、主人を、見守ること。

「すぐ戻れば、平気だよ」
「人に慣れていたみたいだったからね。飼い主が居たら、写真を送りつけてあげようかな?」

無邪気な、そいつは。
佳ノ宮まつりは、幸せそうに、ぼくに誉めて貰うと信じてるのか、えっへんと胸を張り、狼解体の話をした。
 生き物を粗末にしたといって不快な気持ちになる人も居るんだという話を何度かしたはずだが、だから? とのことだし、
まぁぼくも、まつりがそれでいいなら咎めるつもりはない。
そもそもこいつは、むやみに殺すのが趣味なわけではなくて、そう、なんというか、その辺りが難しい。
ちょっと、いろいろとあったのだ。
「昔の貴族だって、鷹狩りとかしてたんだからね」



……はいはい。
「狼の解体写真はね、喜んで貰えると思うな。すごくいい出来なんだよ」
にっこり笑ったそいつは、色素の薄い髪を揺らしながら、こちらに振り向く。
はいはい……
『気分が悪い』とか言ってキレた人をぼくは知ってるのだが、ああいう輩は宥めるの大変なんだぞ。
理解できないやつに送るな。
 ぼくにだけ、見せてくれたらいいのにな。今でも少し妬いてしまうという気持ちと裏腹に楽しげなそいつのそばに来て、素直な感心をした。
「そりゃすごいな、血で毛並みを汚さないのってわりと苦労するんだろ?」

 ついでにさっきから上から見ていた狸を横から──まつりのすぐ隣から見るべく、ドアを大きく開けて完全に外に出てみる。たしかに夜風が、ちょっと寒い。まつりは、寒くないのだろうか。
上着は着ているけど。
「そうなんだよ。あと脂がね。ずいぶん経ってたからね……どうせ可燃ゴミになるなら、綺麗にバラしてあげたいじゃない」
「まぁ……」
それは小さな頃からだった。
 刺身でも作るかのような手際で解体されていくイキモノ。
屋敷にとらわれていた頃のまつりは、いつも庭でこうやって過ごしていた。
生き物を大事に大事に壊す。そして眺める。
愛しそうに。

「なにか、あった?」

 血のにおいがまだ濃く残る、土の上。さっき、ここで、狸が死んだ。まつりの心は代わりに少し生き返るみたいに、いきいきする。だから、そいつは元気が無いときは大抵生き物をバラす。

「うふふふふ。あははははは!
それがねそれがね死の真相、なんて、馬鹿げたことを言って、怒りに震えるって、笑っちゃう子が居てさ、だから、ちょっと、不愉快になっちゃった、生き物が死ぬなんか当たり前でしょ?」
「そうだな」
「まつりは悪くないでしょ」
「うん」

 ぼくの基準は、佳ノ宮まつりだ。
それはずっと昔からそうで、今もそうだった。
――何よりも、誰よりも、優先できる存在。

――まつりがせっかく苦労してバラした狼。の、その命についてしか見えていないというのは、そいつには、あまりに偽善的だったのだろう。
「それは、不愉快になるのも仕方ないな」
「でしょ? 写真代だって、いうなれば、まつりが写真に使ったわけじゃない、手間がたくさんかかったよ」
「ぼくに、手間なら、かけてよ」



少し拗ねたくなってくる。

 ぼくらは、恋人でも、友人でもない。
だけど、そう。
とても、どこか、似ているのかもしれないし、あまりにも異なっている。だから、落ち着く。それくらい。解体癖がなかなか治らないのは知ってるけど、今もぼくはそんな死体が羨ましい、複雑な想いを抱えていた。



――ゴミで捨てちまえよ、カエルも狸も!

なんて言えたなら、気が楽になりそうだが、さすがにそんな過激なことは言えない。目に涙をためて座り込む悔しそうなそいつは、童顔もあってとても、幼く、か弱く見えた。
 ぼくが肩を竦めると、そいつは愉快そうに笑う。

 本当にあった話だ。
屋敷に居た家族たちがある日惨殺される。犯人不明。
大規模な爆発は
なぜか地方紙に載らなかった。
子どもは、一人、ふらふらと歩いていて

──ぼくと二人で、逃げた。

「みんなくだらないことしか言わないよね。命の重さがーとかいいながら人殺したりさ、歳がーとか言いながらいざとなると土壇場で惨めに逃げ回るしさ」

☆☆