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「#エロ」のBL小説を読む
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佳ノ宮まつりには、何かが無い。
 ささぎお姉さまには感じない、漠然とした違和感が不気味さを伴っているから、なんだか、私はどこか得体のしれない感じが苦手な部分もある。……まあ、顔はかわいいけど。

ただ……あの頃と全く同じというわけでもないのかもしれない、という考えが生まれてきている。
 まつりはいつも敬語で、不気味なくらい機械的穏やかに話をしていた印象があった。教科書でも読むようなつまらない印象が。
 あんな風に、夏々都君──彼と居るときのように言葉を乱したりしなかった。
(壁が無い、まるで年相応の友人同士みたい……初めて見た……)

シルビアは考えて慌てて首を横に振る。
ちがうちがう、そうじゃない。
「あぁ。にしてもなんなのよコレ。ちゃんと終われるの? 提示したわりに謎自体がなかなか出て来ないと暇なわけだし、全部まつりが話しちゃうと考えてる暇がなくてつまらない!駄作だわ、このままじゃ」
「そんな実写版トム&ソーヤのレビューを使ってディスられるの、枠と予算の無駄遣い過ぎでしょ」
ふいに、声をかけられた。びくりとしながらも、ゆっくり振り向く。背後に居たのは男。
それも――――藍鶴色。なぜ、彼のような異端児が、このような場所に?此処が、わかってたのか。
「……それにしたって制作段階で、映画使ってまで言うの酷い。アニメでも晒し者にしてるのに、態度悪すぎて庇いきれないわ」
「でも大衆を味方につけるにも視聴率中途半端っていうのがウケます。笑えないけど。何をしてるんですか?」
「……、ちょっとね。久しぶり。色さん」
「ええ、そのようだ」
彼は、ぼそりと、何か口に入ってるんじゃないかという話し方。

「シルビアは、あれかい、ダイヤちゃん――お姉さまへ害悪になる部外者を処分させていた――あの子を、連れ戻しにかい」

「彼女が勝手にしたことよ。私は、関係ない」

「そうかな、碧が消えてから、きみたちは――」
「あの子のことは……今は関係ないの」
「へぇ、そうなのか。だったら」
「あなたたちこそ、なぜここに?」
「わからないのか? さっき、ここの事務室に寄った。部屋は血まみれだが、死体は一切無い状況だった」
「事務室が血まみれ? 今、初めて聞いたわ」
「まつりが、言わなかったんだろう。管轄かと思って」
ああ。
納得する。あのときの会話は、それに繋がってもいたのか。
「私は、そんな、品のないことは致しませんの」
「だよな。血をわざわざあんな派手に散らすなんて、よっぽど見つからない自信があるか、着替えを持ってきているかだろうぜ」
「えぇ。それにそんなこといったら、先方のデータが無意味です。それ以外をして後で文句言われるケースもあるのに。クレームが来たらそんな文句言うならなぜ校正しないんだと。理不尽ですもの」
「俺には、わかんないなぁ」

藍鶴色は、誰にともなく、私の発言に応えるわけでもなく、という風にどこか遠回しに言う。
「彼をわざわざ、ルインの後釜に据えるだなんて。阿部さんは何を考えてそんなこと始めようとしているのか……」
「さぁ。それは私にも。分からない」


 死体が無いのに、血塗れの部屋があるというのもまた、変な話だ。本能というのは不思議なもので、それでも『不気味』を感じとる感性を備えている。
なにかが居る。または、誰もがなにかを隠している。

「本当に、血液なら──死体は何処にあるのかしら……」
考え込もうとした彼女に、藍鶴色は再び呼び掛ける。
「そうだ、シルビア、これに覚えがないか?」
そして、彼の瞳のような色をした端末を開いて、PDFを拡大する。
「なに──」
恐る恐る覗き込むと、それはいくつか黒塗りされた資料だった。
『彼の存在により、■■■■氏の■■■■としての立場的地位は大きく降下。
■■■■氏は裁判を起こし、行七家の社会的抹殺を図る。これは居合わせた■■■■氏らによって、未遂に終わった。次に────』

藍鶴色が、ページを、めくる。私の動悸が少しずつ速くなる。

『彼女の指の長さ、眼球、爪などが昔とは大きく違う、と言う証言から、検証したが、当時の技術では────を見つけられず』

「こ……れ……」



    ◇

「それじゃ、最後に。
150。これが、俺が今回の件に対し、君に言える言葉だ」




(202107251541加筆)