×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

06010126

理事長との交渉後。
 丁度良いので、もう少ししてから理事長と部屋で話をする約束を取り付けてきた。
彼女は頷いて、それからどこかに去っていった。
一応の了承は示してくれたらしい。

  ……なんだか今日は気の重い作業が多い。
ちょっと前も論文のことで騒ぎがあったばかりだというのに。
あれってすぐ終わると思いきや、西尾に渡って、更に感想文みたいな激重原稿となり、ほぼ西尾の批評付きという気持ちの悪いシロモノになってしまっているので余計な騒ぎに発展した。死ねばいいのに……。

 「少なくとも、私が言われるみたいなどう利用するかとか、影響とか、先生に寄るとか西尾さんは言われたことが無いのだと思うと、ちょっと可哀想よね……」
  松本さんや、西尾さんにそれを言ってあげるべきだと思うのだけど、それじゃあまるで、みんなが本当はただ持ち上げているだけみたいに見えてしまう。
  技術を含めた皮肉や煽り混じりの『そういう事』を、言われて居ない、興味を持たれていないのだというのも、本当なら悲しい話だった。
  最近周りで起きていることは皆、よくも、悪くも。私の周りの話題に偏って、彼らの話題がないがしろにされているというのがそれを体現してしまっている。
  私のせいではないけれど、皆露骨だよなぁ……
  彼は私の話題を使わずに誉めてあげないと可哀想でしょ。


 自分の物は常に愛している。
一つ一つ、細部に至るまで、様々な感情が籠っているから。
数秒、数語の僅かな単位でも拘っている、目を閉じていてもハッキリと姿が浮かび、今にも語り掛けて来る。性質と人格を備えた恋人。
(それを数語ずらされ、ピッチを変えられるだけで、ああも聞くにも見るにも堪えないものだな……)
苦しみ、もがいているかのような姿が浮かぶ。
正しい形に戻してくれと言う嘆きが聞こえる。
 ――――感覚が鋭くなるほど、これに苦しむのだという事を、改めて、身を持って知る。
自分が移入したものほど、正しくない形を読み取るのが苦痛で仕方がない。












 理事長と話す時間、まで、まだ猶予がある。
まずは『こっちの予定』を済ませよう。

「行七 夏々都……」
廊下を歩きながら、再び、佳ノ宮ささぎは思考してみた。寮の部屋でまつりの言った言葉を、脳内で何度も反芻する。

 行七はうちのすぐ向かいに住んでいた家だったが、両親同士は仲がよくなく、あまり関わる機会はなかったので、なとなと、の存在自体は漠然としか知らないでいた。
けれど、そう、知らない子と遊ぶなんてそもそも、まつりにはめったに無い事。
だから珍しいなと思い、どのような関係なのかを聞いてみた。

自分と■■■■■する者、彼が今世で祝詞に選ばれた子だと言う。


 祭と祝詞はそれぞれが結び付くひとつの存在。そうやって世界を治め、世界を見守る。
勿論、鬼等という架空のものはでてこない。
此処に置ける祝詞というのは、神が巫女に与えた詩である。
災いのあるとき、苦難のあるとき、道を指し示し、穢れを祓い、世を治めるために遺されたもの。
 『佳ノ宮家の秘匿中の秘匿』として存在しており、その細部はたとえうちのものでもほとんど知らされることがない。
殆ど伝承しか残っておらず、誰が継いでいるのか、今も現存するのかすら不明のままだったのだが……
 その血を持つ者が行七家に居ると、いうのか。
(『祝詞の子』存在そのものが、まつりを拒絶しないわけだ)

 情報が佳ノ宮家内部にもほとんど明かされて居ないのは『其の声を聞いた者のみが其処へ衝く』と、伝わっているからだ。
細かいことはわからないが、断片的な古い資料によると、身内に伝播しやすく『選ばれた子』の一等〜二等親類の立ち入りが特に強く禁じられたという。







 まつりは普段から感情を持つ相手を嫌がった。理解できないから。
排除されるから。認識出来ないから。
存在を汚す俗物だから。思考速度が、合わないから。深い理解を求めると皆が自殺してしまう。精神が破壊される。
昔からそうで、なぜだか、まつりと話そうとすると多くの人間はそうなってしまう。だからこれまで、素の状態で会話出来るのも、私くらいだった。
 けれど唯一、適合出来る存在がいる。祝詞だ。代わりの代償は感情を排してしまうこと。
感覚だけが強く与えられておりその感覚の痛みを感情とする。
共感覚のように思う人もいる。こんなことを理解しているのは、前例を、知っていたから。















――――でも、だとしたらまずいわね。
――――まずいって? 何が?あれらの同人誌のことかな。ああいう形で不用意に『夏々都の情報』が拡散しているのは、確かに後々何かの問題になりそうだけれど。
どうしてわざわざそんな、世界で最も危険な判断を下した人が居るのか。その背景も探さないと。
―――― 一〜二等親類って、わかる?
――――親や兄弟のこと、一般的には血が濃い順番でもある。
――――えぇ、彼がもし『そう』だとしたら、彼の家族が周りにいるのは良くないんじゃないかしら。
――――だから、家族は……
――――たとえネグレクトでも、彼の周りは無意識に操られていたでしょう?
――――半分はおじさんたちの意図的なものだけどね。まぁ、確かに、彼を見ると、兄も「とっとと成仏しろ」とか言っていたくらいだし。何度か首を絞められている。しかも覚えてないから、自分たちの中では溺愛していることに書き換わってしまっている。
まるで、毎年埼玉の同じ場所で黒いハイネックの少女だけが自殺する場所みたいに。周囲に、同じ再現をするだけの――――
あの力が彼を無意識のうちに殺そうとするほどの強制力を持たせているのは確かだ。けど、そうじゃなくて、今……行方を捜して……
――――それなのよ。
――――え……?
――――『ルインの後見人に使えそうな人物が手に入った』って噂を海外にいるとき、あちこちで聞いた。
それで話の内容からしても夏々都君しかいない、と思って、少し探してみたんだけど……そこの研究員、なぜか、エイト、って違う名前を出してくるみたい。


(※2022年12月10日2時04分加筆)






・・・




彼らは特有の感性を持っている。



 例えば、雨が降ることを『嬉しい』とか、『きれいな色が見える』とか。虹がかかることを『悲しい』とか、『まるで眠たい日の夢みたいだ』とか。「まるで雷だね」「海にいた塩の気分だ」とか。



 祝詞も、通常の人間の感情や感性と受け取り方が違っているため、周りの人間が話しかけても理解出来ずに精神が乱れたり、会話の意味を大きくたがえることがあるという。逆に話しかけたつもりで言語のずれを生じさせたりする。発達の度合いではなく感情そのものが、違っているから。
 訴えた感情と、周りの訴えかたが、合わないというのも起こり得る。
 そのため、感情がどういった概念かを、論文のように、羅列するかのように、光をそのまま描くように、『こうである』という以外に質量を持たないのではないか、と言われている。
 ただ感情が停止し、何らかの縮小しない情報量を有する。
夏々都が笑ったり泣いたり出来るのは、まつりが居るから。まつりがそうするのを見てしか、認識し、理解できないのだという。
まつりが笑ったり泣いたり出来るのも、あの日、生きる安らぎを理解出来たのも、ヒトらしく生きることが出来たのも彼が居たから。まつりから聞いたのはそんな話だった。
『だから』まつりとは、気があったのだろう。
まつりは、彼を愛することを選んだ。彼はまつりに与えることを選んだ。








「いくらお姉ちゃんでも、夏々都に何かしたら、絶対に許さない。お父様お母様だろうと許さない。知らない他人でも許さない」