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夢ってやつは本当に記憶の集約、経験の整理なのだろうか。知らないものを見ることがあるのに。
まつりの夢が見られない日。
ぼくがときどき、見る夢。
それは実は、包丁を握りしめている──母さんの夢。
 逮捕歴とか、そんな経歴を聞いた覚えさえない、本人も違うというとは思うのに、なぜか幼い頃から母さんが人を殺している夢を、度々見る。

 頭に血が上りやや赤くなった顔で、
家の中、一心不乱に包丁を握りしめる母さんの夢だ。誰を殺しているのかまではわからないけれど、それはなかなかリアルで、見ていると、現実か嘘かわからなくなる。
 夢が怖くて、そのようなシーンのあるドラマが観られないくらいに、むしろ記憶そのものとなってしまった。
 まつりは、まつりでしかないから、何をしようが別にどうだっていいけれど──
おかしいな、家に、居るはずなのに、家族と、居るはずなのに、ぼくはずっと幼い頃から『家族』にこんな夢しか見られない。そんなことしか考えられない自分も惨めで、だから、 ぼくは、此処にしか言わなかったし、言わないようにしているのに。
10/22AM4:56(VRチャットで使える天使の蛍光灯──プレゼント開始)





そうだ、
 まつりのこと、思いだそう。







屋敷の、あの庭の中。


――――また怪我、させられたの?

まつりが心配そうに、聞いている。
あの庭で、いつものふにゃけた笑顔を向けていた。
あれ……

――――なんで、傷だらけなんだっけ?

――――痛くない?

いたくな……
ぐらぐら、景色が、歪んで、滲む。
ははは、はははははは、ハハハハハハ。
ハハハハハハ。
反響して、
 次第に波紋となって広がってくる嘲る笑い声。
 何処かから、心の奥深くから、知らない声がする。
バクバクと心臓がうるさくなる。


――――お前って、酷いやつだな
――――社長に聞けって言われたんだけど


あんなに穏やかな場面なのに、どうしてか、
不安定な、明晰夢。


ははは、はははははは、ハハハハハハ。
ハハハハハハ。
反響して、ぐらぐら、揺れて、廻って、揺さぶっている。


――――社長に確認しろって言われたんだけどさ。お前、健康観察で俺のこと言ったんだって?

電話片手に、誰かが、大笑いしている。
 あれは、母さんと、   だ。
笑顔で、ぼくにだけ――――二人で、いうんだ。
社長が聞いたからだといってわざわざ、
  を読み上げながら、確認しに来た。
(社長って、誰、だっけ……)

同じ内容で、その作家のアニメがやっていて、同じように、それを指さす   ように笑われてて、
ご飯も、いつも、何かを指しているようなメニューで 
 包丁が、
浮かんで、滲む。

あぁ。
こんな、笑顔を、向けられては。

これいじょう、いけない
 そんな風に、電話しながら、テレビを観て、

ぼくを、指ささないで。



 包丁を握り締める夢と、
『母さんの』
区別が、つかなくなるじゃないか。
区別が
つかないと、
ぼく――――






本当はみんな      じゃないかって、


 ――――ねぇ、山口さんが言ってたのって、こういう事なんですか?
――――生れたときから、疑ってたんだ。

どうして、ぼくは、こんなものを、ずっと……両親から見ているんだろうって、



否定できなくなるじゃないか。






……
まつりの事を、思いだそう。


「あー、ほら、やっぱり、怪我、してるよ。痛いでしょ?」
まつりは強引に腕を掴むとぼくを拘束した。
しゃがむようにと言う。
「逃げたら通報する」
……らしいから大人しくするしかない。有無を言わさず、しゃがまされる。

「いいって、いいって、転んだだけだから」
まつりはぼくのことも気に留めず、外でお茶を飲むテーブルの下から救急箱を取り出している。
「そう言わず、すぐ終わるから。ね?」
 
ちょっと嬉しそうだ。

「……別に、頼んでないんだけどなぁ」
でも、通報されてもなぁ、とか、思うわけで。
「お節介だ。まったく」
 ぼくがぶつぶつ言っている間、まつりは消毒液をぼくの足に塗りたくっている。なんだかんだ言っても面倒見が良いのだろう。


「そうだ、今夜は、サイコロステーキにしようかな」
「サイコロステーキ?」
「うん。細切れになったステーキだよ! 前にごとーから聞いたんだけど、仲間を狩り取って作るの!」

仲間を狩り取るってなんだよ。ごとーは何を教えたんだよ。っていうか誰だそいつ。
とも言い出せずに、ぼくは次の質問をした。

「作るって、メイドさんは?」
「メイドさんのも食べるよ! 最近まつりも少し、お料理を教えて貰ってるんだ。
まずは、少しずつ衰弱させて甚振っていくところからなんだって! それでね、塩コショウを」

 いろんな話をした。
メイドさんが買い物の内容を間違えたせいで奥様に怒られて大喧嘩になった事。そんなに難しいのかと興味を持ってまつりも料理をするようになった事。親戚がまた一人亡くなった事。おばあ様の病状。
「そのときのメイドさんは、クビになってたな」
「へぇ、なんで?」
「『だってぇーお酒飲んでなんかいろいろやってるんだとおもってたんだもーん。そうゆうせかいってやっぱこわいじゃーん』だって」
「こ、こわ……被害妄想ってやつか、こわいなら関わらなきゃいいのに」
「最近、なんだか、少し、物騒なんだよ……食料庫や安置所のある地下を処刑場だなんて嘘までばら撒かれるし……なんか、別のところとうちを混同して覚えられてる……でも、うちが、そんな嘘をつかれるなんてこと自体がおかしいよね」
「うちも最近、変なんだ。母さんたち、決まったメニューばかり食べてるし……これって何かに仕組まれてるって事かな?」
「何か、他に変わったことは? 警備員さんが減ったとか」
「うーん」
考えてみる。
「警備関係で知ってる事っていうと」
 少し前に、誰かの葬式があった事。
それから少し前に、この屋敷の庭から石を盗まれる事件が、
ぼくの家の別の事件と同時にそれぞれの犯人によって起きていた事、それから――


(2022年2月13日11時52分ー2022年2月24日4時20分加筆)