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- ナノ -
2017.12.17

「勘違いの何がいけない?」

お前が受けてきたのは愛じゃない、なんて。
今まで愛されて来なかったんだよと暗に告げる行為をして。

家族はみーんな、きみを痛め付けてただけなんだよ、なんて説明を、わざわざ聞かせてさ。


愛情だと思い込んでいるものに、すがって生きてきた子どもから、いきなり、その全てを取り上げたというだけなのに。


「何か、救われるとでも思うのか!? なぁ! 勘違いでも、そう思うなら愛情なんだよ! そうやって保ってきたものを、なんで奪う!」


自分が叫んでいる声で目を覚ます。
最近、いやな夢を見る。 ヒビキちゃんが、救われたのかは知らない。
ぼくと、あの子が重なるからだろう、やけに、昔を思い出す。

まつりのことが気に入らない幼いぼくは、ときどき、やけに不愉快になってしまう。
あいつが優しいのも、わかっているはずなのに。
「良いとか悪いとか正しいかどうかじゃ、ないだろ! それに依存しててすでに、落ち着かないものが、いきなり、変わると思うのか? タバコが身体に悪いんだよ、ストレスを発散したいなら違うものにして、と言われて、すぐやめるやつばかりなら、みんな健康だろ」

まつりは、ただ、きょとーんとしていた。

「ななと、どうしたの?」
なんて。
それにまた腹が立った。
生きているか死んでいるかわからないのが辛いのは、心の整理がつけられないから。
葬式すべきなのか、待ち続けるべきなのか。
突然真実がわかれば、待ったぶんつらいだろう。早く分かれば、対応が変わったことさえも『行方不明』じゃあ、また変わる。曖昧すぎて。
どうにも出来ない。
動きようが無いものに縛られ続けるのもまた、ひとつの地獄なのだ。
でも。

地獄に慣れきってしまうときもあって。
今更。

「せっかく、居心地良く作り上げてきた世界を、わざわざ乱す必要があったのかよ!」

ぼくは言う。
責めたいわけではなかった。でも、きみは間違ってるよなんて言葉が、合っているなんてことも思えない。

「なぁ……正しいとか、そんなんどうだっていいんだ。拠り所だったんだ。愛情は形が様々で、そしてそのひとつの中に居るに過ぎない、そう思えた方が、幸せに決まってる!」

お前は、それを壊す。
壊してその上笑ってる。憎かった。
ぼくは、甘えていたいわけじゃないし、自分が愛情だと思うものは、やっぱり愛情だと思う。


間違ってたって、それがなに?
いいじゃないか。
本人が幸せなら。

そいつは、きょとーんとして、それから少し、笑った。

「様々、だから。いっぱい知ろう?」

「なん……で」

「あれも、これも、みんな愛情。そしたら、たくさん幸せだよ」

えへへへ、とまつりは笑う。ぼくは、ふい、と目を逸らす。消毒液を傾けて、浸したハンカチを、ぼくの足の擦り傷に当てて、まつりはただ笑っていた。なぜ笑うのかわからないけれど。

「たくさん幸せだと、もっと嬉しいよ!」

「都合が、よすぎる」

「まつりは本を読んでも幸せだし、勉強しても幸せだし、お話しても幸せだし、お菓子を食べても幸せだし、なとなとがこうやって近くにいるのも幸せ。視野を広く持った方が、いっぱい愛情がもらえるし、いっぱい幸せになるよ」

まつりは、だから、笑うのだろうか。
幸せそうに、とても、優しい顔で。ストレスなんかまるで、ないかのような。そんなわけは無いのに。

「っ……」

ぼくはうつむく。
なんで、こいつは、こんなにぼくを掻き乱すのがうまいのだろう。

「ん。そうだね。勘違いでもさ、好きは、好き」

まつりは笑う。
ぼくを受け入れるようなことばかり言う。

「だから」

まつりは笑う。

「まつりのことも、痛みばかりの世界より、もっと、ずーっと、好きになって欲しいんだ」

ぼくを。
掻き乱すようなことばかり言う。

「何よりも誰よりも、好きになってくれたら。それが『一番』に、なってくれたなら。嬉しいんだよ」
「……」

わからない。
よく、わからない。

「夏々都は年上と年下と同年代、どれが好き?」

「少し歳上くらいの方が話しやすい。兄弟とかとよく話したから、気が楽かな」

「男のひとと女の人は?」
「好き? が、よくわからない」

そういや、まつりは何歳なのだろうか。ぼくは、そんなことさえ知らない。見た目は、ぼくと大差無さそうなんだけれど。
「良かったね、まつりは大人です」

どやっと得意気に言われる。リアクションに困るなぁ。

「それはそれで、危険な香りが……」

「なとなとは、精神年齢が少し高いんじゃない?」

「え。いや。悟ってるだけでしょ」

まつりは笑う。
苦しそうに。
少し頼り無さそうな大人の人が居たら、たしかに少し、放っておけない、気はする、けど。
まつりは、大人に見えるわけでもない……のに。
「それに、それは」

「良いこととは限らない」
ぼくの言葉の続きを、そいつは話す。

「普通に、平均的な子どもに混じるには、多少やっかいだよね、それは」

ぼくは、まつりを見上げる。曇りのない目をしていた。

「……でも、仕方ないよ」
ぼくが言うと、そいつは寂しそうにした。何が寂しそうなのかは、よくわからないけれど。