害意すらも愛せる *


「新羅に頼んで張間美香の顔をまた変えようとしたんだって?」

何事もなかったかのように、ある日突然ふらりと新宿のマンションに現れた折原臨也は、帰ってくるなり早々にその話題を切り出した。
「…あなたには関係ないでしょ」
「俺がいない間に随分楽しそうなことをしてたんだねえ。そんなにあの子に妬いた?」
「うるさいわ」
波江はぴしゃりと切り捨て、事務的にコーヒーを用意する。
「しかもよりによって弟君に止められたんだろう?…って危ないなぁ」
ついさっきまで臨也が立っていた背後の壁には果物ナイフが垂直に刺さっていて、波江が投げたのだと一目で判る。
「君って本当に判りやすいよね」
臨也は波江の感情を限界まで揺すり、彼女から言葉を引き出そうとする。
波江もそのことはわかっているつもりでも、やはり苛々する。

「無駄口叩いてないで着替えてきたら?目障りだから」
「その前に君の話を聞きたいね。全く君は素敵な人だよ」
「下らない。どうせ軽蔑してるんでしょ」
「まさか!君の一挙手一投足にはとても興味があるけど、それは君への愛故で軽蔑なんてとんでもない」
「あなたが愛してるのは人間でしょう?」
「ああ、勿論さ。でもその土台の上で僕は君を愛してる」
「あなたが言うとすごく薄っぺらく聞こえるわ」

そうして喋っている間にも波江は茶菓子を綺麗に皿に盛り付け、臨也が接客に使うソファの前のテーブルに置く。
用意ができたのを確認すると、臨也は黒塗りのソファに深く腰掛けた。

「波江」
ティーポットなどを運んできた波江の名を呼ぶと、臨也はそっと彼女の頭を引き寄せた。
「……!」
突然のことに驚いた波江が何かを言う間もなく、臨也は彼女の額にキスをする。
「…っ何すんのよ!」
怒りと困惑と恥ずかしさで顔を赤くした波江に、いつになく優しい目で彼女を見つめる臨也は淡々と言った。
「波江さぁ、」
「何よ」
「弟にべったりな張間美香に嫉妬しすぎて彼女に手出したくなるなら、俺の気持ちにも気づいてよ」
「…は?」
「俺は君が張間美香を消したいくらいに、弟君を消したいんだよ。でも、消したら君は泣くだろう」
だから消さないんだ。

臨也は彼女の頭を抱いた手を離さないまま波江の耳元でそう囁くと、途端にいつもの表情に戻って、何やら難しい顔をして固まっている波江の隣で苦いままのコーヒーを飲み始めた。




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