望まれないハッピーエンド #


苦い。
調子に乗ってブラックコーヒーを飲んではみたものの、これは人間の飲むものではないと思う。

「苦いか?」
余裕といった顔でマグカップに口をつけるドタチンが得意気に訊いてくるけど、返事なんてできる状況ではない。
しかめっ面でコーヒーを睨めば、それで私の返事が伝わったようで、何も言わなくなる。

ああ、嫌な沈黙。
そもそも呼び出したのは私だし、だから何か言わなきゃいけないのはわかってる。
でも、いざ口を開こうとすれば頭に浮かぶのは申し訳なさばかりで、とても情けない。

「ドタチン」
意を決して彼の名前を呼ぶ私の胸の内なんて、とうに見透かしているんだろう。
「別れよ、っか」
「……いいのか」
単純に返事をしてしまったらそれで終わりになる気がして、今更私はためらってしまう。

「ごめんね」
「謝るなよ、お前のせいじゃねえんだから」
こんなときにまで優しい。
元はと言えば、全部私のわがままなのに。

今までの私達四人の関係を壊したくはなくて、でもドタチンが好きで。
自意識過剰なわけではなく自分に向けられていた好意に気づいた彼が、私の想いに手を差し伸べてくれたのがそもそもの始まりだ。

半年以上続いてきた関係をゆまっちや渡草さんには知られたくなくて、私達は普段通りに接していた。
そのせいか、何か恋人らしいことをしたかと言われれば特にそういうことはなかった。

「私のわがままで振り回して、ごめん」
「だからいいって」
嫌いになったわけではないし、むしろ前よりも多分想いは増してると思う。

私が物思いにふけってる間に、彼の手元にある白い陶器のマグカップは中身が随分減っていた。
真っ白な砂糖もミルクも入れないで、苦くないんだろうか。

「ドタチン。」
「あぁ?」
愛されてた自信がなくて逃げるなんて、私はなんて卑怯なんだろう。
きっと、ドタチンはそのことすらも全部わかってるんだろうな。

「…また明日ね」
「そうだな」
カップに半分以上残ったままのコーヒーは、ドタチンが今にも口をつけようとしている。
最後に残すつもりだったほんの少しの想いまで彼に見透かされそうで、そんな光景を見てるのが嫌で、私は足早に喫茶店を後にした。



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