建前上手 *


つきっ放しのテレビでは二人組の刑事がさっくりと事件を解決し終え、画面下に映るエンドクレジットが間もなく十時だということを知らせている。

独り暮らしであるはずの男の部屋には若い女性がいて、更に二人で食卓を囲んでいるとなれば、二人は何かしらの仲であるようにみえる。

「やっぱり俺が作るのとは違うね。俺もそこまで下手ではないけど、この味は世界中の女性が作っても波江にしか出せない味だ」
「褒めてるの、けなしてるの」
「褒めてるに決まってるじゃないか。こんな美味しい料理を食べられないなんて、世間の男は人生の二割ほど損をしていると思うよ」
「馬鹿じゃない」

けれども、二人の交わす会話からは男性からの一方的な好意しか伝わってこず、女の方は素っ気ない物言いしかしない。

妙に歪なその光景も二人にとっては日常茶飯事で、しかしその日のその瞬間だけは何かが違っていた。

「せっかく作ったのに冷めるよ?」
「私の勝手でしょ」
「食べ物は粗末にしたら駄目だよ、食べられない人もいるんだから」
臨也にそう言われると、波江はしぶしぶ自ら作ったパスタに口をつける。
麺を巻きつけたフォークを二、三回口へ運ぶと、波江は手にしていたフォークを置いて臨也をじっと眺めた。

「俺の顔に何かついてる?」
「正確に言えばあなたの右腕に、ね」
そういう彼女の視線の先には、肩から痛々しく吊られた臨也の右腕が。

「脱臼だなんて、全くもって自業自得よ」
「静ちゃんも容赦ないよね、標識投げるなんて」
槍投げのようだった、と他人事のように笑う臨也に、一瞬苦悶の表情が浮かぶ。
「本当にあんな闇医者で大丈夫なの?」
「君が俺の心配をしてくれるなんて」
「私の生活に関わるもの」
「相変わらずつれないねぇ」
ふん、と鼻にかけたため息をつくと、波江は腕時計を見やって投げやりに言い放った。

「今日は帰らないわ、あなたのことで仕事溜まってるし」
「それは嬉しいな。もしかして波江…」
「何?」
「いや、何でもない」

妙に歯切れの悪い臨也に、波江は首をかしげる。
一方の臨也は、自身の願望を敢えて言葉にしてからかおうかとも思ったが、余計なことはせずにとりあえず波江に甘えることにした。



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