+α *


あちこちに設置されたスピーカーから無尽蔵に流れ出す雑音が、耳障りでたまらない。
久々に出てきた池袋は、相変わらずの追いつけない速さで流れていた。

「…うるさいわ」
目に入る人波も、耳につく騒音も、何もかもが煩わしい。

それに加えて、隣でやたら浮かれているこの男の存在も、彼女の苛立ちを増加させる原因だった。

「そう?」
すっとぼけた様子で首をかしげる男を一睨みすると、男はヘラッと笑うだけで尚更彼女を苛立たせる。

「…大体、私達何してるのよ」
「暇だから静ちゃんの尾行、とか?」
互いに嫌悪しているらしい相手にわざわざ喧嘩を吹っ掛けるこの男の神経を疑う。

もっとも、普段の行動からしてまともではないとは判っている。
歪んだ人間愛を日頃から堂々と語る姿に、まともな箇所を探せという方が無理な話だ。

「…見た目だけならまだ普通なんだけど」
「何が?」
いつの間にか思考を巡らせるのに夢中になっていたらしい。
折原臨也に対する率直な感想を本人に聞かれたことに、妙に不愉快を感じながら、彼女は何でもないと流した。

「いや、波江さんが独り言を呟くほどに思い悩むことって気になるじゃないか」
「お願いだから気にしないで」
ぴしゃりと言い切る彼女に、やれやれといった様子で肩をすくめる仕草を見せたと思うと、急に歩みを止めた。

「どうしたの」
「怒らないでね」
何が、と尋ねる間もなく彼女の方を向いたかと思うと、その体を突然抱き寄せた。
「あの、」
「しっ」
口元に人差し指を立て、黙るように無言で伝えてくる。

どんなことをしたってバレるものはバレる、と、どこか他人事のようにこの状況を分析する。
それと同時に、目の前の男の頭すれすれに自動販売機が飛んでいったのを、いっそのこと当たってしまえと眺めていた。




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