笑った歯の間から嘘が零れてく


よお。

先週に引き続き、今日もまた頭上から声がかけられる。
公園の隅っこで本を読んでいる私に浴びせられる日だまりのような声が、私は大好きだった。

「静雄さん」

顔をあげれば、太陽の眩しさをそのまま映したような金髪の人がいる。
金髪にサングラス、バーテン服といえば、池袋で彼を恐れない人はいない。

「また本読んでるのかよ」
「本当に面白いですよ。静雄さんもどうですか」
「俺が読書なんて柄じゃねーだろ」

髪をくしゃりとして視線をそらすのは、静雄さんの癖だ。
きっと彼のこんな一面を知っている人は少ないんだろうな、と思う。
私なんかがその数少ない一人に入っているなんて信じられないけど、この事実は素直に嬉しい。
誰かの特別であるってことがこんなにも嬉しいことだなんて、私は全然知らなかった。

「何笑ってんだよ」

わしゃわしゃと私の頭を撫でながら笑っている静雄さんは本当にかっこいい。
罪歌に愛することを諦めさせたのも、こんなに人間味溢れる感情を私にくれたのも、みんな静雄さんが初めてだ。
帝人君や紀田君に対するものとは違う、特別に人間くさい感情。
この気持ちが何というものであるか大体はわかっているけど、それを表に出すなんて考えられないし、何より私が静雄さんを想ってる、なんておこがましい。

「何でもないです」
「その割には目が嘘っぽいぞ」
「か、顔に出てますか!?」
「嘘だって」
「からかわないでください…」
「なんで」
「ど、動揺します」

私の反応を見て、静雄さんは陽気に笑っている。
静雄さんといると、どんどん自分が自分じゃなくなっていく気がする。
今までの私の殻が全部なくなっていくような、そんな錯覚。
これがいいものなのかどうなのかすらもわからない。

「お前さあ、」
「はい?」
「好きな男とかいんの?」
「ああ、えーと…」
「いんのか?」

腰をかがめて、目線を合わせてこられると困る。
やり場のない視線を膝の上に置いた手に向けてると、唐突におでこを押されて上を向かされて、全部静雄さんに染まった。

「いんのか?」
「な、何でですか」
「単純に興味」
「興味って…」
「可愛いよな、お前」
「…冗談やめてください」
「まあまあ」
「静雄さんは、いるんですか」
「俺は…まあ」
「…そうですか」

音が聞こえるくらいの勢いで真っ赤になっていく私を、静雄さんはどう思ってるのだろう。
嫌われたくない嫌われたくないと空回りしてばっかりの私は、当分前に進めそうもない。




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