焼けたのは心でした *
日焼け。
私の頭にそんな言葉が駆けめぐった。
じりじりとコンクリートごと地面を焼いているような日射しは、気持ち悪いくらい肌にまとわりつく。
ましてやこんな大都会のど真ん中だと、ビルのエアコンやら焼けたアスファルトから発せられる熱気やらで体感温度は何度になってるかわからない。
「暑い…」
言いたくなくても口をついて出てくる。
寒いって言えば暑くないよ、なんて今時小学生でも言わないようなことを堂々と言ってのけた臨也の顔が浮かんできた。ウザいウザいウザい。
そもそも彼はオールシーズン黒い服を着ているけど、暑くないんだろうか。
それ以前に外に出る機会があまりないのかもしれない、それなら本当に可哀想なやつ。
私は面倒だけどこうして毎日新宿のマンションに通ってるし、実はご近所さんとだって仲がいい。
平和島静雄に喧嘩を売るしか暇潰しの方法がないのかと思ったら、我ながら腹黒い笑みがこぼれた。
『プルルルル』
「もしもし、波江?」
「どうしたのよ、遅刻はしてないはずよ」
「いや、今どこにいるかなと思って」
「ええっと…もう裏通りに入ったわ」
「そっか…」
おや、珍しく考え込んでいるみたいだ。
「何か用?」
「いや、ケーキ食べたいなと思ったんだけど、波江は新宿に土地勘ないしねぇ…」
「言われたら行けるわ」
「そう?」
土地勘がないからってケーキ屋も訪ねられないほど無能だとは思われたくない。
でも、バカみたいに暑くて仕方ないのに、変なプライドを守りたくて意地を張る自分に嫌悪感。
「波江?本当に大丈夫?」
「行けるわよ、だからさっさと行き方を教えて」
「ああ、えーっとね…」
さすがに日陰に入って、臨也がすらすらと告げる道筋を頭の中で組み立てれば、お店の場所は簡単に見当がつく。
「わかったわ」
そう言って電話を切ろうとすると、向こうは「あ」と声を上げてそれを阻んできた。
「何?」
「あのさ、暑いから気をつけて」
「わかってるわよ」
「それならいいんだけどさ」
今度こそ切って、表示された通話時間と料金を確認する。
私の心配をするなんて、あいつもとうとう暑さにやられたんだろうか。
考えるほどに顔が火照ってきたのも暑さのせいにすれば、私はケーキ屋を経由して今までと何も変わらずに臨也の元に向かうことができるのだ。