三日月に思いを乗せて *
「田沼…くん」
ゆるい坂道の途中ではぁっと大きく息をついて、透は先を歩く要を呼び止めた。
「タキ、大丈夫?」
「慣れない格好だとキツいねぇ…」
浴衣の裾を直しながら、彼女はひりひりと痛む足の指の間を眺めた。
「上に行くのやめる?」
「ううん、あと少しでしょ?」
夏祭り。
空に大きな花火が上がって、下では人々が何かを求めて右往左往するこのイベントに、夏目は西村達に誘われて、要や透と共に来ていた。
そのうちに夏目達といつの間にかはぐれてしまった二人は、祭りの終盤に始まった打ち上げ花火をよく見ようと高台を探すことにして、現在。
「大きな音ね」
「ああ、結構近いのかもな」
小さな丘の途中で、光のやって来る方向から少し遅れて大きな音が響いてくる。
先を見れば頂上はもうすぐで、遊歩道として舗装されたアスファルトが途切れるのが曖昧に見える。
「あ、来た来たー」
「おーい」
不意に二人を呼ぶ声がして要と透が顔をあげると、懐中電灯がゆらゆらと振られていた。
「夏目くん?」
「西村達もいる」
「よお」
陽気に声をかけてきて、三人が二人に合流する。
「俺達と同じこと考えてここに来ないかって思ってたんだ」
「それにしてもお似合いですねぇ」
「なっ…」
「照れんなよ」
にやにやしながら西村に目をやる北本と、何が何やらわからないといった顔をした西村と、微笑みながらその様子を見ている夏目。
透がくすっと笑って、要が夏目と目を合わせた瞬間、一際大きな花が咲いた。
「ねえ、多軌さん」
「何?」
「多軌さんって好きな人いるの?」
「えっ」
北本の突然の問いかけに、その場にいた皆が驚く。
「何言ってんだよ北本」
「仮にいたとしてもここでは言わないだろ」
「そ、そうだよ!てか夏目じゃな」
西村の口を慌ててふさいだ北本は、顔を赤く染めている透に「冗談」と笑いかける。
ホッとした空気が五人の間に流れた中で、透がそっと要の浴衣のたもとを握っているのは、二人だけの秘密だった。