密か事 *


滅多に授業の行われることのない教室の前の廊下で、薄い陽の光を受けながら何やら話し合っている二人の少年がいた。


「…というわけ、なんだ」
「…何で俺に言うの?」
「一番彼女に近いだろ!」
当人達は小声で話しているつもりが、人気の少ない廊下にはその声がよく聞こえていた。

「とにかく羨ましいよ、五組の多軌さんとあんなに仲良いなんて!」
「声が大きい!」
人差し指をたてて、向かい合わせに立つ少年に静かにするよう促す。

「夏目、頼むから協力してくれよ、な?」
「協力って言われても…」
歯切れの悪い返事には理由があって、しかしそれを話すことはできない。


「なあ夏目、機会を作ってくれるだけでいいんだ」
「機会って…」
「夏目が話をしているときに、さり気なく呼んでくれるとか!」
とにかく多軌さんと喋りたいんだ、と、普段の調子とは打って変わった真剣な眼差しで語りかけてくる。

「…判ったよ。俺にできることなんて少ないけど」
少年がそう言うと、彼は両拳を胸の前で握りしめ、何とも言えない嬉しそうな顔をする。

「でもさ…」
「何かあるのか?」
妙な切り出し方をして、話始めようとする彼を、噂の彼女の声が遮った。

「あれ、夏目君?」
いきなり声をかけられ、慌てて振り向く。

「た、タキ」
「どうしたの、変な顔してるけど」
「ううん、どうもしないよ」
後ろで慌てふためいている気配を隠しながら、さりげない顔をして振る舞う少年の別の友人が彼女を好いていることは、結局言えないままだった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -