通い路 *


街の雑音も、季節に合わせて音量が上下しているよう。
そんな風にも思われる静かな夕方の通学路を、二本の長い影が前後しながら這っていた。

「夏目」
「何?」
「変な風に捉えるなよ?」
「何を」
「タキのこと、どう思う」
「タ、タキ?」
口をつけようとしていた缶コーヒーを宙に浮かせたまま、妙な目で右隣の背の高い少年を見る。

「タキって、多軌透?」
「そうだよ」
「タキ、ねえ…」
独り言ともとれる呟きを残すと、意味有り気なその視線を空に外す。

「面白い、かな」
「そうだな」
水が滴るように二人の声が紡ぎ出されて、そこからまた静けさに包まれる。
建物の影に時たま顔を覗かせる太陽は、その度に二人の瞳を細めさせた。

「田沼は、どう思うの」
ようやく左側の少年が口を開く。

「…落ち着く?」
「なんで疑問系」
「よくわかってないから」
「他には?」
「他には、さっき夏目が言ったように面白いとも思うし」
でもそれだけではない、と付け足して、澄んだ色の空を見上げる。

「うーん…」
「なんで夏目が唸るんだ」
「いや、もしかしたらタキが好きって言いたいのかな、と思って」
「…そうだよ」
「よかった、的外れなことなら恥ずかしかったから」
「確かにな」
そう言うと、二人とも白い息を吐いて、声を出さずに笑う。

「そっか、タキね…」
「何だよ」
「いや、タキなら田沼が好きになるのも判らなくないと思って」
「そっか」
「話してくれて、ありがとう」
「夏目だからな」

そこまで話すと、丁度よく二人が別れる所に辿り着く。
さよなら、と手を振り微笑んで、朱色に染まる互いの姿を見送らずに家路についた。




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