ミルクプディングから飛び出した *


鈍色の雲が立ち込め、やたら風が冷たい、そんな真冬のある日。

「それでね」

小さな一軒の喫茶店に、遠目には恋人同士のような男女が、窓際の席に座っていた。


彼女が彼を誘うのは、決まって何かに迷ったとき。
幼馴染みだから、と、ある意味割り切ったつきあい方をしていた。

「好きな人?」
「そう」
叶いそうにないけれど、等と妙にはぐらかすようなことを言う。

「でも諦めねーんだろ?」
「それはそうだけど」
「なら答は出てるだろ」

二人の会話を遮るように、店員がそれぞれ注文した品を運んできた。

彼女の前に華やかなミルクプディングのスイーツが置かれたのをみると、彼はようやく自らのコーヒーに口をつけた。

「あなたは?」
「何が」
「そういう目ぼしい相手はいないのってこと」
「いるように見えるか」
全然、と首を横に振ると、窓の外を行き交う人波を眺めている。

「いないこともねーが」
「ふーん」
大して興味もなさそうに返事をすると、窓の向こう側の彼らに向かってため息をついた。

レンズ越しの世界が、実は長い彼女のまつ毛に滲む。
何を見ているのだろうか、と向いた先を眺めてみても、特に面白いこともなく。

しばらく同じ景色を見ていると、混沌とした雑踏に似つかわしくない、白。

「あ、」
聞こえるか聞こえないかくらいの微かな声が、吐息のように漏れて。
瞬間彼女の瞳が、幼い子供のように揺れた。

「行くぞ」
「え?」
「どうせなら生で見たいだろ」
妙な顔をする彼女に、先に店を出ているよう告げる。

支払いを済ませて彼が外に出ると、彼女は白いそれの降ってくる方を見上げていた。

「積もるかな」
手を擦り合わせ、髪に小さな結晶を積もらせながら、独り言のように呟く。

「積もるだろ」
滅多に聞かない穏やかな声で、にわかに微笑みながら、彼は彼女と同じ空を見上げていた。


淡い粉雪が確かに積もるまで、さほど時間はかからずに。
街は、まるで彼女が先程食べていたミルクプディングさながらの白色に染められていた。





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