穏談暇


(銀妙)

暖かいのは、昼下がりの穏やかな陽射しと、二人の和やかな声。


「だから、甘いものばかり食べていると糖尿病で死にますよ」
「もう既になってそうなんですけど」
「だったら尚更止めようとは思わないんですか、それ」
そう言って少女が指差したのは、大盛のパフェ。
「週に一度の楽しみなんだからさー」
「早死にしますよ」
「短く太く生きるからいいの」
教師はそう言うと、そこにあるパフェを豪快に食す。

呆れた表情で眺める少女は、不意に冷たい風の吹いてきた方へ顔を向けた。

「窓閉めたらどうだ」
「いいんです、嫌いじゃないから」
何が、と尋ねようとした。

「志村」
「はい」
「何でもない」
「何ですか、それ」
むっとした口調で、残り半分ほどになったパフェを教師の前から取り上げる。

「ちょ、返して」
「嫌ですよ、やっぱり駄目です」
「なんで」
「…それは、色々と」
「早死には大丈夫だって」
「それだけじゃありません」
頑なに高々とパフェを掲げて、座ったままの彼から届かないようにしながら淡々と語り続ける。

「私の希望、もあります」
「意味わかんね」
いいからパフェを返せ、と、教師がようやく立ち上がってきた。

「あ」
彼女の背中に腕を回して、抱きしめるようにする。
不意にそんなことをされて驚いた彼女の隙をつき、高々と掲げていたパフェを奪い返した。

「卑怯です」
「取るお前が悪いの」
「だって、私は」
「私は、何よ?」
「…何でもありません」
午後の授業が始まる五分前の予鈴を合図にするかのように、少女は職員室を後にする。

「長生きしてほしいんです」
去り際に彼女が殆ど聞こえないくらいの声で呟いたのを、教師は敢えて知らないふりをした。




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