曖昧な指先に泣く私 *


先生先生先生。
気がつけばいつも考えているのは先生のことだなんて、我ながら末期だと思う。
それでも、走り出した恋というのはどうにも止められないもので。

「猿飛」

聞き慣れた声と聞き慣れたトーンで名前を呼ばれて、おもむろに顔を上げれば、厚い前髪越しに私をじぃっと見つめてくる数学教師の顔があった。
目を合わせていると私の心なんて簡単に見透かされてしまいそうで、私の視線はいつも手元のプリントや窓の外、教室の壁なんかをチラチラしている。

「先生…」
「あ?」
「わかんないんですけど。」

先ほどから私の手はxを書いたきり止まったまま。
積分なんて大嫌いだ。

「どこまでできたんだよ」
「ほとんど進んでないですよ」
「デコピンすっぞ」
「それは勘弁」

左手で額を覆うように隠しながら、私は渋々ややこしい計算の続きを裏紙に書き始める。
書いても書いても変な方向にしか突っ走ってないようで、手を止めては先生の様子を盗み見るけど、先生は私の手やプリントを凝視していて、気まずくて仕方ない。

「ここはこうするんだよ」

見かねたのか、シャープペンシルを渡すように言ってきた。
さっさとそうしてくれればいいのに、なんて思ったけど、先生の指先が手のひらをかすっただけでそんな野暮ったい思いは消し飛んでしまう。
すらすらと式を組み立てていくあたり流石数学教師だ。

「お前もう受験生だろ」
「あと半年ないです」
「頑張れよ」
「はーい」

もらったヒントを参考にすれば、ややこしい問題もすんなり解ける。
どうせあと半年もすれば教師と生徒ではなくなるんだから、この問題みたいに私しか知らない恋心だってほどけてしまえばいいのに。

「頑張れよ、な」

ぼーっとしていたら、先生は不意に私の頭をぽんぽん、とやってきた。
あまりにも自然にやられたから驚くこともできない。
優しくて、それでいて私への期待値の大きさを感じさせる手に、不覚にも胸が高鳴ってしまう。
だめだ、こんなんじゃあ駄目なのに。
「はい」としか言えずに放課後の教室をあとにした私が、色んな気持ちを消したくて消したくなくて泣き出したいくらい辛いことだって私しか知らないんだ。



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