あなたは逃げも隠れもしない *


暑い。
慣れない浴衣を着て、慣れない下駄を履いて、私は人があふれる神社の境内で鳥居に寄りかかっていた。

七時なんて、お祭りに参加するにはちょっとだけ遅めの時間に待ち合わせをしてきたあいつはまだ来ない。
腕時計の長針はもう11を指していて、あと五分のうちに来なかったら帰ってやろう、なんて意地悪いことを考える。
ああもう、本当に遅い。
いい歳して恋に浮かれてるなんてバカみたいだ。
頭の隅っこではわかっているのに、髪型を変えてみたりしてる自分が滑稽で仕方ないし、片側に寄せた髪を指先でいじってみても、不安と心細さは消えない。

時間だけが過ぎていって、長針はだんだん12に近づいていって、いよいよ期待した自分がバカだと思えてきた。
会いたいけど、会えないならそれでこの気持ちに諦めがつきそうな気もする。
それこそ子供時代からの幼なじみで気心が知れすぎている、そのせいで自分の気持ちに自信が持てないのも事実。
曖昧に宙ぶらりんな感情を抱いているよりはスパッとふっ切れた方が、

「よう」
「ビックリした…」

職業柄動揺が顔に出にくいとは思ってるけど、多分今の私はすごい顔をしてる。
わざと気配を消してきたのか、それとも考えすぎていた私が不注意だったのか、そんなのは知らないけどこんなに驚いたのはいつぶりだろう。

「お前らしくねーな」
「ちょっと、ね。それにしても待たせすぎ」
「なに言ってんだよ、ほら」

全蔵の携帯のディスプレイが、暗闇に慣れた目に眩しい。
それでも何とか目を細めれば、画面には19:00の表示があった。

「ぴったりだろ?」
「あのねぇ」
「なんだよ」
「…女の子待たせるのはどうかと思わない?」
「女の子って…お前いくつだよ」
「失礼ね」

そういえば、全蔵に約束を破られたことはなかったな。
不意に昔に思いを馳せそうになってる、いけないいけない。
それにしても、こんなやつが、こんな夜くらいちょっとは紳士的なことしてくれるかな、なんて期待してた自分がなんだか馬鹿らしくて、そのくせいつもと何も変わらない全蔵の態度に安心している自分がいる。
会えただけで舞い上がって、変化のなさに落ち着く単純な私の左手を全蔵は全蔵らしくなく優しく握って、私たちは人ごみにまぎれた。




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