視線の先には何時も君


(山妙)


教室の後ろ側の掲示板に、隙間なく掲示された習字の作品。
夕方の日が差す教室で、山崎退はそれらをぼんやりと眺めていた。

目で追いたくなくても追ってしまう「志村妙」の名前。
女性らしい線の細い字体で、それでも力強く書かれた文字を見るだけで、笑みがこぼれてくる。

「山崎さん?」
まだ残ってたんですか。

そう言いながら教室に入ってくる志村妙は、後方にある自分の机の中を何やらゴソゴソと漁っている。

「忘れ物ですか?」
「数学のノート忘れちゃって…」
「あ、そういえば…」
「はい?」

見つけ出したらしいノートを手にしながら顔だけで振り返ってくるだけで、退はドキッとする。

「き、今日の英語のノートあります?俺寝ちゃってて…」
「あ、私のでよければ」
はい、と差し出してくるどこにでもあるようなノートを、しずしずと両手で受け取った。

「それにしても蒸しますね」
「あ、はい…夏ももうすぐですよね」
「夏休みは何するんですか?」
「俺は特に決まってなくて…志村さんは?」
「私はお祭りに行こうかなーなんて」
「いつでしたっけ?」
退にしてみれば、彼女とこうして話していられるだけで舞い上がりそうで。
まともに目も合わせられず、ちら見しては目を逸らしてしまうことの繰り返し。

「もし暇だったら、ご一緒にいかがですか?」
「ご一緒に…って、え!?」
「ごめんなさい、気に障るようなこと言いました?」
「いや、志村さんから誘ってもらえるなんて…」
「弟も一緒ですけど、構いませんか?」

妙は友人として、退は憧れの人として。
退としてはすれ違う想いを切なく感じながら、それでも何かに期待して首を縦に振っていた。


恋風 様に提出



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -