her melancholy *


昨日の荒れた天気とはうって変わり、雲一つない快晴の下。
姿を潜めていた春も、この日ばかりは顔を出していた。

「暖かいわね」
バス停に立つ私達は、いかにもつまらなさそうな顔をして、中々来ないバスを待っていた。

「春だからだろ」
「一応ね」
つれない素振りで返事をすると、羽織った上着のポケットから携帯電話を取り出していじり始める。
彼はどこからか厚い漫画週刊誌を引っ張り出し、黙々と読み始めた。

「面白い?それ」
「あ?ああ」
まあな、と彼が答えたところで、周りの音をかき消すくらいの轟音を立てながら、ようやくバスが入ってきた。

「これ?」
「いや」
行先が違う、とうそぶくから、どこに行くのだ、と尋ねた。

「どこだと思う」
「は?」
「行先だよ」
「判らないから聞いてるんじゃない」
「ならしばらくそうしてろ」
会話を中途半端に断ち切り、にやっと意味ありげな笑みを浮かべると、また視線をそらす。

「ねえ」
「あ?」
「寒い」
「暖かいだろうが」
「私は寒いの」
苛立ちを隠せずに自棄になって言葉をぶつけると、眼鏡越しにじろりと睨みつける。

「おい」
「え?」
「手」
「はぁ?」
「手、見せてみろ」
左手な、と付け足されると、訝ってはいるものの素直に左手を差し出す。

その手を不意に、彼の手に繋ぎ止められると、心臓が止まりそうな程に驚いて、顔から湯気が出そうだった。


嗚呼、なんて計算高い!





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