少女
やっていたのはただのごっこ遊び。
逃げてしまいたかった。君と居たいのに、此処に居たいのに、どうしても何処かへ行きたい。
がんばることからも、がんばることをがんばることからさえ、逃げ出してしまいたいたくて。
そんな我儘を開き直る強さも、わたしには無い。
だから遊んでみたの。
ひとりぼっちの逃走劇。誰かを連れ出すことさえ叶わずに。
行く時はひとりだった。
夏の宵、ひっそり抜け出して月明かりの下を歩くだけの、そんなささやかな逃避行。
暗い暗い夜に溶けて、ぼやけて、滲んで、消えてしまえたら。そんなつまらない妄想をする。
同じだけ月の足音と呼び声を期待した、自分の中に巣食う愚かな少女に引導を渡すことも出来ないまま。
握った鋏は絆も未来も断ち切ってしまうかしら。
それでも、迷いだけは断ち切ってくれなかった。
せめて心だけは夜の闇に放って。
もう、帰らなくては。
最初から最後まで、ひとりぼっちの逃避行。
[ 8/34 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]