緋音
ほんのひと夏、いっしょに過ごした。
それだけ。ただそれだけのこと。
わたしの友達と友達だったあのひとに影響されたあなたはわたしを選んだ。
優しい雨がわたしに触れて、過ぎ去りゆくその雨と共にわたしたちの夏は終わりを告げる。あなたがわたしに触れなくなった理由を、あなたが遠くに棄て去って忘れてしまったその理由を、わたしはちゃんと知っていたよ。
月と水辺に惹かれたあなたは行ってしまった。
わたしを置いて、行ってしまった。
さみしい。
かなしい。
けれど知っていた。
「きっと迎えに行くよ」
その言葉が本当になどならないことくらい。
優しい雨を忘れられないあなたに、それに触れたわたしの音を聴く強さがないことも。
だからもう、さようなら。
「ごめん」
離れているあなたの声がいま、聴こえた気がしたの。
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