シキサイ

過去に撮った写真を綺麗だと思わなくなったのは、
その過去が本当は綺麗なんかじゃ無いと知ってしまったからで。
目が覚めたわたしは、君に会いにゆく道の途中、春の陽射しと照らされた街を、空を、未だ咲かない桜をさえ、本当に本当に綺麗だと感じた。
そして溢れる春に照らされた君が、君と見る景色のすべてが、どうしようもなく綺麗で泣きたくもなったんだ。
君が隣に居なかった頃のわたしが撮った春と、君の隣で撮った春を見比べてみた。そうしたら、遠いあの日の桜が予想以上に綺麗でなくて、唐突にわたしは思い知る。
詰まるところ、綺麗なのは光だけなのだということ。
光が無ければ、街も色も花も意味を失うこと。
光が無ければ、どんなに優しい言葉も歌も温度を失うこと。
光が無ければ四季さえも、暦の上の幻想に過ぎないのだと。
唐突にわたしは、思い知る。
(春が、来たよ)
四季を知った。
色を知った。
温度を知った。
それはぜんぶぜんぶ、君が居たからで。
詰まるところ、綺麗なのは君だけなのだということ。
(わたしの瞳に映るセカイ)
いつかの約束を思い出していた。その名を呼びたいと、強く想っている。
思いの外君はうそつきじゃなくて、わたしの知っているほかの誰よりもうそつきじゃない君を、。それでも、失くしたモノより此処にある今が嘘じゃないことだけを知っているから。
わたしからも君に約束を。
君がわたしに手渡したのとおなじ約束を。
これからも。
(そうやってわたしのセカイは彩られる)
(つめたくてあたたかで、あざやかなセカイ)

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