バスターミナル

目の前を横切る人をただ眺める。
“何処かに行きたい”人達。“何処かに行かなくてはいけない”人達。私も、そう。
「本当は何処へも行きたくないの」
拒む心を宥める様に煽ったミルクセーキは優しい甘さ。大丈夫だよ。なんて君の声が、聴こえた気がした。

此処に居たい。
けれど、それでも“何処か”へは。
ずうっと此処には居られないから、私達は進んで行かなくては。
ずうっと変わらずには居られないから、私達は変わって行かなくては。
変わり始める光、変わり始める色、変わり始める風。
きっともうじき、暖かくなるね。
春がやって来るんだ。
新しい光が、新しい色が、新しい風が、私を“何処かへ”と運ぶ。変わってゆく。今日の私はすこしだけ新しい、昨日とは違う私。

手をね、繋いで行こう。
「行きたくない」んじゃないよ。
「変わりたくない」んでもない。
だんだんと変わっていって、だんだんと新しくなって、だけど変わらないまま、古びていくものもそのままに、私は私なんだ。
君も君なんだもの。
変わっても変わらなくても、
新しくても古くても、
私は君と一緒が良い。
だから手を繋ごう。
離れていても会えなくてもずうっと手を繋いでいよう。
大丈夫だよ。ってその声を、
頬を撫でるその手を、君の笑顔を、
君を、忘れたくない。
明日も其処に君が居るなら、私は何処へだって行けるんだ。

[ 29/34 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -