東京タワーの詩

49階のベランダからほしのうみを眺めて
届きそうなのに届かない手に、死にそうになった。
「飛びたい」
そう思ったことに意味なんて無く、たぶん、いっときのくだらない感傷に過ぎなくて。だからこそそんな自分を殺したくもなったんだ。
もしもわたしが死んだら、あの場所の彼等は、この場所の君達はどう思うのだろう。
よろこぶのかかなしむのか。
そうしていつか忘れられてしまう。
いつしか、なかったことになる。
上書き保存の人生において、相手の世界から退場することは何度目かの死と同等の意味を持つ。
彼等君等の忘却によってわたしはほんとうの意味での死を迎え、消えてゆく。彼等君等の意図とは無関係に、わたしはあなたたちに殺されてゆく。
「ころさないで」
あの日、小さく殴り書いたことばの本当に意味するところを知った。
東京タワーのてっぺんが霞んで見えないことがかなしかった。
見えなくても確かにそこにある、それだけで構わないと思えないことがたださみしかった。
「覚えていて」
このことばを今でも、本音として言えない。
それでも。
それでもまだ、生きていたい。

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