「火藍、こんな感じでどうだろう」
「わあ、素敵! やっぱりネズミはセンスいいわあ」
 おれは今、火藍と一緒にクリスマスケーキを作っていた。
 クリスマス、というものは宗教のお祭りで、キリスト教の神子イエスの生誕を祝うものだったらしい。だが今ではその風習も廃れ、パーティーとしての形のみが残ったのだと火藍は言った。NO.6は市民全員が無宗教であったから、なんとなくその話も納得がいく。NO.5などの他の都市では、宗教もまだ盛んらしい。
「折角のイベントなんですもの、楽しまなくっちゃ!」
 火藍はそう言って、クリスマスケーキの材料を広げたキッチンにおれを連れてきた。
 火藍曰く、紫苑は器用だが、センスは全くと言っていいほどないらしい。にんじんを綺麗な星型に切るテクニックはあっても、生クリームでデコレーションするのは苦手分野だそうだ。紫苑は再建委員の仕事もあるということで、火藍はおれに持ち掛けてきたのだった。
「ネズミってそういうの、得意でしょう? お店の飾りつけ、すごく気に入っちゃって。莉莉たちにも人気なのよ、素敵って」
 そんなことを満面の笑みで言われたら、頷くしかないじゃないか。ましてや、愛しい人の母親だ。
「あとは苺を乗せるだけね」
 ボウルの中に積まれた苺をひとつぶつまむと、火藍はおれの口元にそれを持ってきた。
「え、火藍」
「つまみ食いくらいいいわよ。わたしもよくやるから」
「でも」
「こんなにたくさんあるんだから、ひとつくらい減ったって困らないでしょ?」
 有無を言わせない微笑み。おれは諦めて唇を開いた。そっと押し込まれる甘い果実。
「……うまい」
「よかった」
 純粋なその笑顔は、息子と同じものだ。その笑顔を愛しいと思う。そしてこの笑顔を守りたいと思う。そう考えてふと、以前火藍に言われた言葉を思い出した。
「わたしにあなたを守らせて」
 多分火藍は、おれを甘やかしたいのだ。なんとなく、普段の行動や言動からそれを感じる。殺伐とした人生を送ってきた自分に少しでも楽しい日々をという、火藍の優しさだ。純粋に嬉しいと思う。
(いつの間にか、こんなに)
「大体できたわね。そろそろ紫苑が帰ってくる時間だから、お出迎えに行ってくれないかしら?」
「途中なのに、いいのか?」
「いいの、後はやっておくから、気にしないで。わたしばっかりネズミを独り占めしちゃ、紫苑に怒られちゃうもの」
 いたずらっ子のように笑う火藍はとても、優しい母親だった。
「ただいまー」
「帰ってきた! ほらネズミ」
 背中を押されて、慌ててエプロンを取り玄関へ向かう。背中に火藍の優しい微笑みを感じた。
 母親とクリスマスケーキを作ることも、愛しい人の帰りを玄関で迎えるのも、これまでできなかったことだ。幸せだと、とても思う。これからもずっと、この幸せが続けばいいと、おれは心から思った――。


Happy Christmas!!


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