この感情は恋、なのではないか。そう思ってしまってから、なんとなくネズミにメールをするのが怖くなってしまった。人付き合いに慣れていないぼくにとって、片想いの相手と冷静な会話を交わすというのはかなり、ハードルが高いことだった。もしも直接顔を突き合わせてのことだったら、一体ぼくはどうなってしまっただろう。
 そう、片想い、なのだ。この想いは絶対に、成就することはない。なぜならぼくたちは、相手が一体どういった人間なのかを全くといっていいほど、知らないのだ。せいぜいわかることといえば、本がとても好きで、同じくらいの歳で、演劇をやっていて、そして、同じ男だということくらいだ。
 そう、相手は男だ。そしてぼくももちろん、そうだ。どんな人間か、なにをしているのか、全くわからない、しかも同じ男に好きだと言われて嬉しい人間が、一体どこにいるというのだろう。
「それに、ぼくは……」
 寝巻きの袖を、そっと捲った。白い腕に巻きつく、赤い痣。体中に絡まっているこの痣は、幼少期に患った大病の後遺症だ。この痣の他に、髪の色素も抜け落ちてしまった。痣のことは未だにわからないが、髪の色はどうも体内のメラニンが大幅に減ってしまった影響らしく、今ではぼくは日差しの強い日に外に出ることができない。
「こんな体で、なにが恋、だ……」
 無謀すぎる。
 もう眠ってしまおう、と毛布を被ったそのとき、枕元に置いてあった携帯が光った。
「なんだろ……」
 今はまだ昼の12時だ。ネズミはいつも夜に送ってくるしなんだろう、と思いながら携帯を開き、新着メール1件と書かれたお知らせをクリックした。
「え、ネズミ……」
 ネズミだった。こんな時間にメールが来ることなんて珍しい。ぼくは急いでメールを展開した。

 あんたもしかして忙しいのか? 無理してメール打たなくていいからな。都合のいいときに返信くれればいいんだ。おれだってそうしてるんだし、お互い様だろう。それとも、なにかあったのか?

 その文を見て、慌てて送信ボックスを開き、ネズミに送った一番新しいメールを展開する。送信ボックスの一番上にあったそのメールの日付は、既に3日前だった。きりっと胸が痛んだのに気付かないふりをして本文を見ると、そこには2行ほどの短い文章、そして変換を間違えた漢字がいくつも並んでいた。
「ネ、ズミ……」
 あんた絶対誤字しないよな。以前そう言われたことがある。当たり前だ、毎回送信前に誤字脱字がないかを何回もチェックしてから送っていたのだから。
「ネズミっ……」
 ごめん。やっぱりぼくは、きみが好きみたいだ。
 初恋は叶わないなんて、誰が言ったのだろう。ぼくの初恋は、どうにも叶いそうもなかった。


初恋は叶わない、ジンクスさえも憎い

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