ぼくが彼と出会ったのは、ぼくがメル友募集掲示板に書き込んだアドレスに、彼がメールをくれたのがきっかけだった。体が弱く入院生活をしているぼくは毎日が退屈で、そんなときその掲示板と出会った。退屈な毎日になにか刺激が欲しい。ただ病院のベッドの上でぼうっと窓の外を眺める毎日、飽き飽きしていた。
彼からメールが届いたのは、掲示板に書き込んでから3日経った日のことだった。名前と簡単な挨拶だけの質素な本文。だけれど文面がとても綺麗で一瞬にして惹きつけられたぼくは、すぐさま返信を打った。
彼――ネズミとのやり取りはとても楽しく、退屈だったぼくの毎日は一変した。母の火藍も、最近よく笑うようになったわね、と喜んでくれた。ぼくにはそれも嬉しかった。
学校にあまり行けていなかったぼくには、友達と呼べる存在があまりいない。唯一幼なじみの沙布は付き合いを続けてくれていたが、他の人はしょっちゅう入院しているぼくとなにを話したらいいのか、わからないのだろう。たしかにぼくは最近の流行りも話題のゲームもなにも知らないもので、そういった輪の中には入っていけなかった。
だからネズミという存在はぼくにとって、とても新鮮なものだった。彼はあまり流行り物の話を好まなかった。彼は本を読むのがとても好きで、今日はこんな本を読んだだの、あの本は面白かっただの、本の話をたくさん送ってきた。ぼくはそれがとても好きだ。彼の影響でぼくは、本を読むことを覚えた。
対してぼくは、外にどんな花が咲いていただとか、今日の天気はどうだとか、そんな話しかできない。我ながらつまらないと思う。それでもネズミは、嫌がるそぶりを全く見せない。それどころか、その花はこんな花言葉があるんだよ、なんて教えてくれたりするのだ。ぼくは彼のそんなところも、とても好きだ。
彼は、ぼくの知らない世界をたくさん知っていた。白に埋めつくされた薬品臭い部屋くらいしか知らないぼくには、たまらなく嬉しく、そんな世界を教えてくれる存在の彼がとても大切になっていった。彼はぼくの中で、特別だった。
こんな想い知らなかった