それからずっと、こいつはおれにつきまとってきた。他人と関わりたくなんてないのに、そんなおれの気持ちなんて無視して。
「ネズミ、煙草なんかよりこっち口に入れてたほうがいいよ」
 そう言って飴玉を差し出してきたのはいつのことだったか。それ以来紫苑はことあるごとに飴玉を渡してくる。
 甘ったるい。こんなの、絶対におかしい。
 そう思いながら、口の中で飴玉を転がす。どうしておれはこんな変な奴と一緒にいるんだろう。そう思ったときもあった。
 独りでいるのが楽だった。独りでいつのが当然だと思ったのに、どうして。
「ネズミ……?」
 急に黙り込んだおれを不審に思ったのか、紫苑がまた顔を覗き込んでくる。
 真っ赤な目。吸い込まれそうになる――
「こんな飴玉じゃ、足りない」
「ネズ、……んっ」
 衝動的に紫苑の胸倉をつかんで、唇と唇を乱暴に合わせた。紫苑の肩が、びくんと跳ねる。
 乱暴に舌を捻じ込み、絡める。飴玉の甘ったるい味が広がった。
「ネズ、ミ……っ」
 紫苑が身じろぐ。腕を強く掴まれて、はっと我に返った。
「あ、紫苑……ごめん」
「ネズミ、きみ、わかってる?」
「は?」
 紫苑の目がすっと細くなる。
「ぼく、きみのことが好きなんだよ……?」
 ゆらりと視界が揺れ、再度唇に柔らかいものが触れた。
「んっ……!?」
 強く唇を吸われる。ちゅっとリップ音が鳴った。
 反射的に閉じていた目を開くと、そこにはあの赤い目。吸いこまれそうになる、魔性の目。
「しお、……」
「ネズミ、好きだ」
 赤い目が、おれの目を真っ直ぐに射抜く。怖いほどに透き通った、綺麗な目。その目がふと、笑む。
「口寂しくなったら、いつでもおいで。煙草の代わりに飴玉、あげるから」
 あとキスもね、と紫苑は笑うと、おれの手に飴玉に握らせると、くるりと背を向けて去っていった。
「……くそっ」
 なんなんだ。あの目は、思考を惑わせる力でもあるのか。
 おれは渡されたいちご味の飴玉を口の中の放り込んだ。紫苑の同じ目の色をしたそれは、吐き気がするほど甘かった。

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