「太宰に平手打ちを食らわせたらしいな」

開口一番織田作さんにそう云われポカンとしてしまった。
一体何の話をしているのか。
幹部である太宰さんに平手打ちなんて、そんな恐れ多い事をする筈がない。
そもそも太宰さんに会った事すらないのだ。
織田作さんは若しかして誰かと間違えているのか。

「そんな命知らずの事を私がする筈ないじゃないですか…人違いじゃ…」
「太宰が川で自殺しようとしていたら止められて説教された挙句に平手打ちを食らったと云っていたが」

思い当たる節があった。
やってしまった。
あの時の自殺莫迦は太宰さんだったのか。
だから私の過去を知っていたのか。
確実に私は消されてしまう。
幹部様に平手打ちなんてそんなとんでもない事をして生きていられるわけがない。
短い人生だったけれど織田作さんのお陰で楽しかった。

「織田作さん、今までいろいろと有難うございました」
「何を云っているんだ?」
「幹部様に平手打ちなんて私確実に殺されます…」
「話によれば太宰が随分と失礼な事を云ってお前を怒らせたと聞いたが。それで今日お前に謝りたいと」

ほら、と指さされた方向に目を向けるとそこには太宰さんがいた。
何で連れて来たんですか織田作さん。
私はもうちょっと生きていたかったですよ。

土下座でもすれば若しかしたら許してもらえるだろうか。
太宰さんが酷い事を云ったのは事実だが、平手打ちを食らわせたのは流石に不味かった。
こんな事になるくらいなら幹部の顔を全員覚えておけば良かった。
と今更悔いても仕方ない事なのだが。

「この間は失礼したね。君に如何しても謝りたくってね」
「私の方こそ…とんだご無礼を…申し訳ありません…」
「何故君が謝るんだい?私があんな事を云わなければ怒らせずに済んだ。全て私が悪いのだよ。君が謝る必要はない」

てっきり銃口でも向けられると思っていたが、如何やら違ったようだ。
太宰さんは申し訳なさそうに目を伏せた。
長い睫毛に一瞬ドキッと心臓が跳ねた。
本当に美しい顔立ちをしている。
実際に会うのは初めてだが、女性構成員に太宰さんのファンが多いのは知っていた。
誕生日やらバレンタインやら、そう云ったイベントの際には必ず太宰さんと中原さんの名前が上がっていた。
どういったものが好きなのかと、みんなそれを知ろうと必死に駆けずり回っていたのをよく覚えている。

「君にお詫びをしようと思っていてね。あの時君は美味しいものを食べると楽しくなると云っていた。そこで今夜私と美味しいものを食べに行くと云うのは如何だろうか」
「お詫びなんて、そんなのいいですよ…もう気にしてませんから」
「君の気持ちを考えずにデリカシーのない事を云ってしまい傷つけたのは事実だ。せめてお詫びをさせて欲しい」

ここまで云われてはこれ以上何も云えなくなってしまう。
気にしてないと云ったがそれは全くの嘘だ。
あの後滅茶苦茶へこんで自宅のベッドで泣き明かした。
次の日目が腫れて織田作さんに心配された程だ。

断り切れずに結局食事の件を承諾してしまった。
幹部様のお誘いだ、最下級構成員の私が断れる筈がない。
織田作さんに一緒に来て欲しいと頼み込んだが、誘われたのはお前だけだと云われ断られてしまった。
気が重いがバックレるわけにもいかないだろう。
お願いだから夜が来るなと何度も願ったが、無情にも徐々に空は暗闇包まれていった。









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