本当に偶然だった。
その日、たまたま織田作さんと歩いていたら人だかりができていたので、何事かと見に行くとそこには今にも自殺しようとしている男性がいた。
体に爆弾を巻き付けて震える声で「来るな」と叫んでいる。
放って置いても良かったのだが、私は放って置けなかった。
過去の自分が頭に過ぎってしまったから。
あの時止められなかった自分を思い出してしまったから。
ちょっとした物悲しい過去を持つ私は、命を粗末にする奴が大嫌いなのだ。
折角生きているのに如何して自ら死を選ぶのか。
全く私には理解できないし、そんな行為を見逃すわけにもいかない。

「何してるんですか」
「く、来るな!!来れば爆発させる!!」
「何があったか知らないですけど、死ぬ覚悟があるなら辛い事も乗り越えられる筈ですよ」

私が一歩近づく度に男性は一歩後退する。
そうしてじりじりと近づいた結果、壁まで追い詰めた。
もう彼に逃げ場はない。
あまり刺激すると本当に爆発させてしまう恐れがあるので慎重に優しく声を掛ける。

「お前なんかに何が分かる!!」
「本当に死にたいと思っているんですか?なら何でさっさと爆発させないんですか?貴方は死にたくないと思っているんでしょ?誰かに止めて欲しいって。だからこうして大通りでこんな事してるんですよね?だったら私が止めます。生きてください。生きていればきっといいことがあります。でも死んじゃったらいいことも何もなくなってしまうんですよ」

必死の説得に涙を流しその場に崩れ落ちた男性から、起爆スイッチを取り上げると。
肩に手を置き頑張れと優しく囁いた。
男性はただ「ありがとう」と涙を流すばかりだった。

その様子を隣で見ていた織田作さんが、急に笑い出したので何事かと理由を聞くと、何でも知り合いに自殺マニアがいるらしく。
その人と私を会わせたら如何なるかと考えて笑っていたらしい。
自殺マニアとはこれまた酔狂な。
ムスッとした私にいつか会わせてやると云ってきたがお断りしておいた。
するとまた織田作さんは笑った。

「さっきの科白、あいつにも聞かせてやりてえな。生きていればいいことあるって」
「自殺マニアには何を云っても無駄だと思いますけどね」
「如何だろうな。けどお前ならあいつに生きる理由を与えてやる事ができるかもしれない」

この時の私は、まさか織田作さんの話している知り合いが幹部の太宰治だなんて知る由もなかった。
ただ織田作さんの知り合いなのだからきっといい人なのだろうと、とんでもない勘違いをしていたのだった。
これからすぐ後にそれはとんだ勘違いだと気付く羽目になる。

いつも通り今日も仕事をこなしていたのだが、運悪く最近ポートマフィアの縄張りを荒らしている組織に出くわしてしまった。
重ねてこれまた運悪く今日は織田作さんはいない。
私一人では如何する事もできない案件だ、織田作さんに連絡をすると近くにポートマフィアの人間がいるからそいつらが向かう、と云われた。
間もなくしてやって来たのは準幹部の中原中也さんだった。
とんでもない人が来てしまったと驚いてしまう。
最下級構成員の私がこんな雲の上のような人に会う機会なんてほぼない。
当然話した事もない。
おまけに顔が凄く怖いので、足が震えてしまう。

「手前は?」
「さ、最下級構成員のみょうじなまえであります。こんな処までわざわざご足労頂きありがとうごじゃいま…あっ」

緊張しすぎて思わず噛んでしまった。
如何しよう怒らせたかな。
おずおずと中原さんの様子を伺うと彼は笑っていた。
それもお腹を抱えて。

「ンな緊張すんなよ。別にとって食おうなんて考えてねえし」
「へ、へい…」

いやいや、緊張しますって。
目の前に準幹部様がいらっしゃるのだから。
しかも中原さんは幹部候補。
一番幹部に近いと云われている程優れている。
そんな凄い人を前にして緊張しない人がいるのだろうか。

一通り笑い終えた中原さんは例の組織を追って建物の中へと入って行った。
当然私もついて行かなければならない。
全く何の役にも立たないだろうがこればっかりは行かないと云う選択肢は存在しないのだ。

中に入るや否や開始される銃撃戦。
無能な私が応戦できる筈もなく、ただ慌てふためくばかりだった。
何処かに隠れる場所はないかと探すものの、銃弾が飛び交う中、下手に動けば当たってしまう。
オロオロする私を見兼ねてか、中原さんは私を庇うように前へ出た。
思わずその背中にしがみつく。
止まない銃声と怒号。
何の役にも立たない私はただ彼の背中に隠れるばかりだった。

銃撃戦が終わる頃にはすっかり腰を抜かした私はへなへなとその場に座り込んでしまった。
立ち上がろうにも力が入らない。
最後の最後まで私はお荷物でしかないようだ。
やっぱり来るんじゃなかった。
外で待っていれば良かった。

置いて行って下さいと告げたが、そんな事はできないと中原さんはしゃがみ込むと私を横抱きした。
ギョッとした私は口を金魚のようにパクパクさせるばかりで何も云えず。
そのまま車へと運ばれて行ったのだった。









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