彼を思い出さない日なんてなかった。
何も云わずに置いて行かれて、四年間も音信不通で。
もう私の事なんてどうでも良くなったのだと何度思った事か。
それでもあの日、彼が私に愛していると云ったから。
だから私は悲しくても辛くても、太宰さんがいない日々を乗り越えてきた。
それなのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。

いつの間にか溢れ出た涙は止まる事を知らず、いつまでも私の頬を濡らした。
覆いかぶさったままの太宰さんは何も云わず、ただ悲しそうに私の顔を見つめている。
何で貴方がそんな顔をするんですか。
悲しいのは私なのに。
置いて行った貴方が何でそんな。

一向に泣き止まない私を見兼ねてか漸(ようや)く覆いかぶさっていた体を退けた彼は未だ動けない私の体を優しく起き上がらせた。
微かに震えるその体を抱きしめ、小さく「ごめん」と耳元で悲しそうに呟く。
莫迦な私はそれだけで今まで抱えていた怒りや悲しみが全て吹っ飛んでしまった。
つくづく私はとんだ阿保だ。

やっと泣き止んだ私の顎に手を当てるとそっと上を向かせ口を塞いでいた包帯を取り払う。
そして今度は優しく、まるでガラス玉を扱うように優しく口づけた。
何度も、何度も。
名残惜しいとばかりに離れた唇は再度私の唇を塞ぐ。
この後如何したら良いかなんて、今はそんな事を考えている余裕はなかった。
ただ再び触れたこの熱が何処かへ行ってしまわないように。
また消えてしまわないようにと強く彼の衣服を握り締めていた。

どれ程の時間が経ったのか。
この行為に終止符が打たれた頃には窓の外が薄暗くなっていた。
そこで私はハッとした。
こんなにも長時間私が中也さんの元からいないとなると探しているかも知れない。
帰らなければと慌てて立ち上がろうとした私の腕を掴んだのは紛れもない太宰さんだった。

「太宰さん、あの、私…」
「アレの元へ帰るのだろう?私が帰すと思っているのかい」

今度は何があっても離さない。
そう云った太宰さんの眼光に背筋がぞくりとした。
この人は私が如何あがこうが帰す気はないだろう。
実力行使で逃げようとしても敵うはずがない。
それは痛いほどよく分かっている。
だけど中也さんの事だ心配しているに決まっている。
それに困った事に何も云わずに出て来てしまったのだ。
端末だって太宰さんに取り上げられているし、連絡のしようがない。
何より今此処で再び中也さんの名を口にしたら何をされるか分からないし不用意に余計な事を云うわけにもいかない。

「聞いてください。私はポートマフィアの人間なんです。だから―――」
「だから早く帰らないと心配する?自分を探しに来る?果たして本当に探しに来るとでも思っているのかい?君がいなくたってポートマフィアは困らないのだよ」

そんな云い方はないんじゃないか。
大して役に立たない事は自分が一番よく知っている。
だから織田作さんが大変な目に遭っていたのに私は何も出来ないどころか何も教えてさえくれなかった。
気付いたら全て終わっていて、大切な人が私の目の前から消えていた。
ポートマフィアが困らないなんて、そんな事云われなくても。

だけどただ一人だけ居なくならずにずっと傍で支えてくれた人がいた。
織田作さんも太宰さんも消えてたった一人になった何の取り柄もない私を。
彼だけは見捨てずに救ってくれた。
支えてくれた。
生きる意味を失った私に「俺のために生きろ」と云ってくれた。
そんな優しい彼に私はまだ何も返せてはいない。

「―――っ」

中也さん。
その名を口にしようとした時、太宰さんの手にあった私の端末が鳴った。
目をやった彼の表情がゴミを見るようなものに変わったのを見て察しがついた。
舌打ちと共に呟かれた名は確かに「中也」だった。
やはり心配してくれている。
じっと端末を見つめている太宰さんの手から何とか抜け出した私はとにかく出口を目指したが。
彼に敵うはずもなく壁に押し付けられてしまった。

「私よりも中也を選ぶ、と?」
「そ、そんなんじゃないです…けど…」
「けど?」

やってしまった。
先刻、一度怒りの静まった太宰さんを再び怒らせてしまった。
シンと静まり返った室内に私の心音が響いているのが分かる。
震えていた足の力が抜けその場に座り込んだ私の衣服に手を掛ける太宰さん。
上手く動かない体を無理やり動かし抵抗を試みるも力の差は歴然。
はだけた首筋に顔を埋めた彼は跡を残してやるとばかりに噛みついた。
首筋に走った痛みに思わず顔が歪む。
それでも止まらない彼の手は衣服を剥ぎ取り上半身に纏うは下着のみとなってしまった。
ゆっくりと外されたブラのホック。
抵抗しなきゃと頭では分かっているのに、首筋の痛みと恐怖に体が竦んでしまい動けない。
再び押し倒された私は先程とは打って変わって乱暴に押し当てられた唇を受け入れるしかなかった。








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