何百回も何千回も何万回も願った。
叶うなら如何か一目でいいから彼に会わせてくださいと。
目の前にいる彼は本物なのだろうか。
これは夢なのだろうか。
彼が、太宰さんがこんな処にいる筈がない。
そんな事あるわけがない。
では目の前にいるこの人は偽物?
私はきっと悪い夢を見ているのだろう。

とりあえず頬を抓ってみると確かに痛みを感じた。
如何やら夢ではないらしい。
幻影かとも思ったが何度も目を擦り見直すがそこに彼は存在している。
私がずっと会いたくて堪らなかった彼が此処にいる。
掴んだ腕も微笑むその顔も。
何もかも覚えている。
体の震えが止まらない。
云いたい事はたくさんあるのに何も云い出せない。
会ったらぶん殴ってやろうと思っていた。
なのに私は未だ動けないままだ。
本当に会えるなんて思っていなかった。
もう横浜にいないと思っていたのに。
まさかこんな近くにいたなんて。
心の準備くらいさせて欲しかった。
再会しても尚彼は私の心を乱すらしい。

「久しぶりだね、なまえ」
「ほ、本当に太宰…さん…?」
「他に誰に見える?」

やっぱり本物だった。
背丈はあの頃よりも高くなっているが、それ以外は何も変わっていない。
あの頃のまま、私の知っている太宰さんだ。
びっくりして上手く言葉にできない私はいつの間にか泣いていた。
悲しいわけじゃない。
なのになぜか涙が勝手に流れていた。
そんな私に太宰さんはそっと涙を拭う。
涙が零れ落ちる度に彼は拭ってくれた。

徐々に落ち着きを取り戻した私は漸く掴んでいた手を離した。
置いて行った事やその他諸々。
彼にはいろいろな恨みがある。
許したわけじゃない。
感動の再会なんて演出してやらない。
何を云ってやろうかと考えていると、私の手を見た太宰さんの眉間に皺が寄った。

「つい最近、中也に会ったんだけどアレも君と同じ指輪をしていた。何で?」
「何でって、それは…わ、私が彼の恋人だからです」

そう云った瞬間、太宰さんの顔が豹変した。
何度も見た事がある顔だ。
そう彼は物凄く怒っている。
怒りたいのは私の方だ。
そもそも私が中也さんの恋人になろうが太宰さんには関係ない。
置いて行ったくせして今さら何を。

身構えた私の腕を引いた太宰さんは押し付けるように唇を塞いだ。
ぬめっとした感触が口腔内へと侵入してくる。
貪るように舌を絡める彼から逃れようと腰を引くが、それ以上の力で引き戻されてしまった。
暫くして離された唇。
彼の手には先刻まで嵌めていた指輪が握られていた。

「指輪返してください!」
「あれ程躾したのにまだ何も分かっていないようだね。いいかい、なまえは誰のものでもない私の所有物だ。つまりこの指輪は君が嵌めていてはいけないものだ、分かるかい」
「い、意味が分かりません」

後ずさりをして逃げる隙を伺っていたが、再び掴まれた腕に引きずられた私は完全に逃げるタイミングを失ってしまった。
痛いくらいに掴まれた腕を振り解く事も叶わず。
何処へ行くのか太宰さんはどんどん進んで行く。
川から離れ繁華街を歩き、やって来た先は小さなアパートだった。
そのアパートの一室に連れ込まれた私は、部屋に入ると同時に畳に投げられそのまま倒れ込んだ。
何度も経験した事のある行為。
この後一体何をされるのか容易に想像がつく。
中也さんに助けを求めた方がいいだろうか。
ポケットから端末を取り出したが覆いかぶさるのが早かった太宰さんに取り上げられてしまい助けを求める手段を失ってしまった。
あの時と同じ。
四年前に中也さんとの仲を疑われた時と全く同じだ。
異能力を使って逃げようにも彼の異能力無効化の前には何の役にも立たない。
咄嗟に大声を出そうとするも大きな手で塞がれてしまった。
何処からか出した包帯で何重にも口元に包帯を巻かれてしまい大声が完全に出せなくなってしまった。
如何する事もできない私はただただ彼を見つめるばかりだった。









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