先日の遠征から帰って来た後に中也さんは地下室に向かった。
そしてそこから戻って来た彼は明らかに様子が変だった。
何が変かと聞かれると上手く説明できないが、態度が明らかに以前とは違う。
本人は何もないと云っていたけれど流石の私でも何かあった事くらいは分かる。
地下室で何があったのだろうか。
やはりあの時私もついて行けば良かった。
自分も行くと云ったが頑なに拒否されてしまい。
仕方なく一人で執務室へ戻った。
あの時の中也さんも様子が可笑しかったのは確かだ。
余程私を地下室へ連れて行きたくなかったのだろう。
ふと、太宰さんの顔が浮かんだが、まさか彼に限って捕まるようなヘマはしないだろう。
おおよそ拷問か何かを行っていて、私がそう云うのは嫌いだと知っているから連れて行かなかったのだと思う。

遠征から帰って来ても最近は忙しくなかなか休みが取れない。
今日だってこうして中也さんの代理で人に会った帰りだ。
それと同時によく武装探偵社と云う名前を聞く。
何でも異能力者の集まっている探偵社らしい。
そう云えば前に推理力の凄い異能力者と出会ったが、あの人もそうなのだろうか。
名前を聞きそびれてしまったが、まあもう会う事もないだろう。
そもそも武装探偵社とポートマフィアは敵対している。
首領によれば武装探偵社員は皆殺しにしろとの事だ。
今でも殺しはしない事にしている私には如何しようもないが。
織田作さんがそうであったように、私は今後も殺しはしない事にしている。
織田作さんが亡くなってもう四年も経ってしまった。
彼の事を忘れた事は一度もない。
ずっと私の一番大好きで尊敬すべき先輩だと云う事に変わりはない。
できればもう一度会いたいと思うがそれは叶わない願いだ。
後悔の念だって消えない。
若し私がもっと強ければと未だに思ってしまう。
弱かった私にはあの時何もできなかった。
何もできないまま全てが終わっていた。
そして大切な人を二人も失ってしまった。
四年経った今も私は強くない。
守られてばかりだ。
せめて迷惑が掛からない程度には強くなりたいと思っているが、いつも誰かに守られてしまう。
織田作さんに昔「それはお前だから」だと云われたが、私は守ってもらう為にポートマフィアに入ったわけではない。
でも悔しいが今も昔も私には圧倒的に力が足りない。

ネガティブな思考に陥ってしまい肩を落としながら歩いていると見慣れた河川敷に辿り着いた。
忘れるはずがない。
此処は私と太宰さんが初めて出会った場所だ。
そして此処からあの人との関係が始まった。
身勝手に振り回しておいて忽然と姿を消してしまったあの人は今何処で何をしているだろうか。
会ったら殴るとかふざけんなとかいろいろ思うところはあるけれど、それでもやっぱり会いたくて堪らない。
好きだとかそう云うのはよく分からないけれど、会いたい気持ちは大きい。
でも太宰さんは私に会いたいと思ってくれているだろうか。
あの人は私を置いて行ったのだ。
若し使えないから、役立たずだからと置いて行ったのだとしたら。
考えたくはないけれど、そう思われていても仕方ない。
如何やら今日の私は何処までもネガティブらしい。

自分自身を嘲笑しながら帰路に着こうとした時。
川沿いに茶色い外套を着た男の人が立っていた。
あの日の太宰さんもあんな感じで立っていたのをよく覚えている。
何をしているのかと見ていたら突然川の中に入って行って慌てた事も鮮明に覚えている。
考えたくないのについ彼と重ねてしまう自分は如何しようもない。
あの人は太宰さんじゃない。
彼がこんな処にいるはずがない。
そう思いながら見ているとあの日の彼と全く同じ行動を取った茶色い外套の彼にまたしても驚いてしまった。
そして考えるよりも先に体はその人の元へと向かっていた。

「な、何してるんですか!?」

川に入りかけた彼の腕を力一杯掴み必死に阻止する。
私に止められた事が可笑しかったのかその人は笑っていた。
この笑い声も雰囲気も似ている。
いや、似ているどころではない。
全く同じだ。
まさか、そんな。

「また君に邪魔されてしまったね」









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