最近よく耳にする"人虎"と云う言葉。
何でもとんでもない額の懸賞金が賭けられているらしい。
その懸賞金目当てか、はたまた別の目的があるのかは知らないが、現在人虎の行方を捜している。
確か賞金は70億と云ったか。
途方もない額に目が回ったのは覚えている。
そんな額を軽々と賭けられるなんてさぞお金持ちなのだろう。
しかし70億は大金だ。
そこまでして手に入れようとする組織がある人虎とやらを私もちょっと見てみたい気もする。
さぞ高貴な存在なのだろうと勝手に想像している。
けど私の担当ではないので残念ながらお目にかかる事もないだろう。
人虎の担当は芥川君だ。
彼も随分と出世したと思う。
今やたくさんの部下を従え日々戦っていると聞く。
未だに私は変わらず嫌われているが。
この間話しかけたら物凄い形相で睨まれてしまった。
何かした覚えはないのだが、気づかないところでやらかしてしまったのだろうか。
とにかく今でも私は芥川君とまともに話せていないわけである。

人虎と関係のない私は上司の中也さんと共に遠方にやって来ている。
四年前より少しは戦闘力の上がった(多分)私は一応現場に出て戦う事もしばしば。
そりゃ一人で何百人分の戦闘力にもなるであろう中也さんに比べたら私なんて道端の雑草かも知れないが。
けれどそれなりにはきっと役に立っている筈、多分。
あれこれ考えている私の隣を歩く中也さんは滅茶苦茶ご機嫌斜めで、だだっ広い廊下の床が抜けてしまうのではないかと思うくらいドスドスと歩いている。
今から別組織との商談があるのだ。
彼自身、商談は好きではないらしく、よく他の部下の人と私が行っている。
しかし今日はかなりの大口の組織なので、幹部が行かざるを得ないと云うわけだ。
眉間に皺を寄せ時折舌打ちをしながら案内された豪勢な部屋で相手方を待つ。
商談の内容自体は至って簡単なものだ。
先方が来てから五分も掛からない内に商談は終わり、私達は部屋を後にした。

此処に来てもう一ヵ月が過ぎようとしている。
現在は中也さんとホテル生活を送っているが、当然同室だ。
同居しているので別に気にする事もないけれど、私に何の断りもなく気がつけば同室になっていた。
何処に行くにもこの人と同じだなーと最近しみじみ思っている。
まあ嫌いではないので構わないのだけれど。
しかしながら困った事もないわけではない。
今さらかも知れないが相変わらずスキンシップが激しい。
人前で服を脱ぐ機会なんてないので不便はないけど、体中に付いているキスマークはなかなかやばいと思う。
そして日に日に増えている。
跡が消えかけてもまたその上に新たな跡を付けるので一向に減らないのだ。
遠回しに以前樋口ちゃんに相談してみたら、それは独占欲が強いのでは?と云われてしまった。
なるほど納得してしまい、結局何の解決策も見出せなかった。
そして私は全てを諦めた。

「怠い商談も終わったし明日帰んぞ」
「やっと帰れるんですね」

超高級ソファーで葡萄酒を楽しんでいる中也さんの隣でちびちびジュースを飲んでいる私。
腰には彼の手が回され離れる事は許されない。
時折グッと抱き寄せては額や頬にキスをしてくる。
酔っぱらった中也さんはいつもこんな感じなので慣れているが。
たまに私の膝の上で眠ってしまう事もある。
そこで役に立つのが私の異能力だ。
触れたものを浮かせる事ができるので彼の体を浮かせてベッドまで運んでいる。
使い方を間違っている気もするが、まあ気にする点でもないだろう。

「指輪、ちゃんとしてんだな」
「当然ですよ。頂戴したものなんですから」

手を重ねてきた彼の指にもまた同じデザインの指輪がやっぱり嵌められている。
いい加減素直に認めるべきなのだろう。
ここまでしておいてそれでも恋人ではないなんて流石に云い逃れできない。
けど前に出会った名探偵さんに探し人は案外近くにいると云われてしまい、それが気になって仕方がないのだ。
もし中也さんとペアリングなんてしていると知ったら太宰さんはどんな反応を示すのか。
もう四年も経っているのだ、私の事なんてどうでもよくなっているだろうか。
私の中のモヤモヤは大きくなるばかりだ。
大体置いていったあの人を何で私が此処まで気にしなければいけないのか、何度も思った。
そして何度も忘れようとした。
それでも私は忘れられなかった。
太宰さんが消えたあの日から一度もこのモヤモヤが消えた事はない。
忘れようとする度にあの人と過ごした日々を思い出してしまう。
これ程までに私を悩ませているのだ、もし会うような事があれば絶対に殴ってやると心に決めている。

その日が近づいているとはこの時の私は知る由もなかった。









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