薄暗い路地裏を急ぎ足で通り過ぎていく。
どれだけ歩いてもまだ路地裏を通り過ぎる事はできないようだ。
天気が悪いわけではない。
ただ、高層ビルに阻まれて光が届かないだけなのだ。
こんな気味の悪い場所を別に好きで歩いているわけではない。
仕事だから仕方なくなのだ。
何度目か分からないため息をつくと先程よりもほんの少し足を速めた。

港湾都市である横浜を縄張りとする凶悪マフィア、通称ポートマフィア。
その最下級構成員である私に回ってくる仕事と云えば誰にでもできる、しかし誰もやりたがらないような仕事ばかりだ。
私だってもう少し悪役みたいな仕事をしてみたい気持ちは大いにある。
麻薬の売買やら非合法商売やら、そういった事をしてみたいが、そんな仕事が回ってくる事は皆無だ。
私と同じ最下級構成員であり、私の先輩である織田作さんはどんな仕事でも文句の一つも漏らさずに淡々とこなしている。
この人は本当に立派で、そして実力のある先輩だ。
こんなにも凄い人なのに如何してこんな仕事をしているのか聞いた事があるが、一言「これが向いているから」と答えていたのを思い出した。
向いていると云う回答に納得はできなかったが、本人がそう云うのならばそうなのだろう。
それ以上深くは追求しなかった。
如何して人を殺さないのか、についても。

「織田作さん、お待たせしました」
「こんな処までわざわざすまんな」
「いえいえお仕事ですから」

今日も今日とて誰もやりたがらないような仕事が回ってきた。
ポートマフィアのフロント企業が入っているビル近くの商店街に最近チンピラがやって来ては悪さをしているらしい。
要するにそいつらを懲らしめろと云うのが私と織田作さんの今回の仕事と云うわけである。
傍から見れば凶悪マフィアの仕事とは思えないだろうが、これも仕事のうちなのだ。
基本的に命の危険に晒されるような仕事は回ってこないのでその点では恵まれているとは思う。
これでも一応は異能力を所持している私だが、私の異能力は触れた物を浮かす事しかできない。
こんな能力一体何処で使えば良いのか自分でもよく分からない。
銃弾が飛んできたとしても触れなければ浮かせる事ができないのだから何の意味もない。
織田作さんには面白い異能だと云われたが、正直云って役にも立たない異能力ならば無能力者に等しいと思う。
かと云って戦闘能力が高いかと問われればそうでもない。
ちょっと重火器が扱える程度だ。
こんな奴がもっと悪役のような仕事をこなせるかと云うと無理だろう。
だから今のこの立場が実際今の私には丁度いいのかも知れない。
やりたい事とできる事は異なるのだ。

「全く、いい加減悪さをするのはやめろ」
「そうですよ、大人しく観念しなさい」

襲い掛かってきたちんぴら共をあっという間に倒してしまった織田作さん。
私はその様子を邪魔にならない処から見ていた。
縄で縛られ殴られてボコボコになってもまだ悪態をついている。
ため息をついた織田作さんは、ちんぴらの胸倉を掴むと至近距離で説教を始めた。
織田作さんはあまり脅迫したり痛めつけたりしない。
そうすれば手っ取り早いのだろうけど、本人があまりやりたがらないのだ。
私自身もそういった事は好きではない。
だから織田作さんと凄く気が合うし、こうして彼の仕事を手伝っている。
へっぽこで何の取り柄もない私に対しても普通に接してくれる。
決して見下してこないし、自分の実力を誇示しない。
準幹部でもおかしくないような実力の持ち主なのだが、本人は興味がないらしい。

「今日も織田作さんのお陰であっさり片付きましたね。さすがです」
「別にそんな大した事はしてないだろ」
「ご謙遜を。織田作さんがいなかったら私だけじゃこうもあっさりいかないですよ」

そんな事はないと、頭を撫でてくれる織田作さん。
いつか私もこの人みたいに立派になれるだろうか。
こんなへなちょこでも、織田作さんの役に立てる日がくるだろうか。
次行くぞと云われ返事を返した私は路地裏に背を向け大きな背中を追いかけた。









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