樋口ちゃんとの女子会からテンション高めに帰宅すると、玄関に中也さんの靴が置いてあった。
珍しく飲みに行かずに帰って来ているらしい。
珍しいなと思いつつも上機嫌の私は特に気にする事もなくリビングへと足を進めると、ソファーで一人葡萄酒を飲む中也さんの姿があった。
家で飲む時は大抵私が隣に座っている。
私は酒に弱いので飲まないが、中也さんが飲んでいるのをお喋りしながら眺めている。
一人で飲むなんてこれまた珍しい事もあるものだ。
ただいまと声を掛けると少し顔の赤くなっている彼に手招きされた。
されるがまま近づくと隣に座れと手で指示され何の躊躇いもなく隣へと腰かける。
黒いTシャツの襟元から覗く鎖骨にドキッとしつつも座っていると前触れもなく押し倒されてしまった。
覆いかぶさる中也さんは深く長いキスをしてくる。
舌と舌が絡み合い息苦しさにもがいた私の衣服は乱れている。
酔った彼は大体いつもこんな感じだ。
不意に襲ってくるし、何ならそのままヤる事だって多い。
正直もう慣れた。(慣れていい事なのか如何かは置いといて)
ふと樋口ちゃんに恋人同士なのかと聞かれた事が頭を過ったが慌てて振り払った。
今も昔も変わらず私は押し倒されたばかりだ。

しかし今日ばかりは少し違った。
流れ的に抱かれるのかと思ったが、あっさり中也さんは起き上がり酔いを醒ます為か水を飲み干した。
疑問符をいくつも浮かべている私を再び見つめると右手を出せとぶっきらぼうに呟き。
よく分からないまま手を差し出すと薬指に指輪が嵌められた。
指輪を見ると私が樋口ちゃんと訪れた店で購入を諦めたものだった。
如何して彼がこの指輪を持っているのか。
これは偶然なのか。
びっくりして開いた口が塞がらない。
驚いて固まっている私を見て中也さんは楽しそうに笑っている。
青天の霹靂とはまさにこの事だ。

「え、ち、中也さん…これ…何で…」
「手前が欲しかったやつだろ?」
「そうですけど。何でその事を知ってるんですか!?」

にやりと笑った彼がその理由を教えてくれる事はなく。
少し大きめの同じデザインの指輪を私に渡すと、付けろと云わんばかりに手を出した。
恐る恐る嵌めると指輪をしている私の手にそっと重ねた。
ペアリングなんてしていたら恋人同士ではないなんて余計に信じてもらえなくなる気がするが、彼の行為を無下にするなんてできない。
満足そうな中也さんは私の手を取ると薬指に唇を寄せた。

「俺は今でも手前の事が好きだ。この気持ちは四年前と何一つ変わっちゃいねえ」
「…私は…その…」
「無理に答えなくていい。今は傍にいてくれるだけでいいからよ。今は、な」

この優しさにどれだけ救われた事か。
この優しさに何度甘えた事か。
自分は最低な人間だと云うのは痛いほど分かっている。
彼の優しさに甘えてこうして傍に居続けている。
本当は答えるべきなのにずっと何も云わないままだ。
狡い人間だと思う。
でも私は弱いから、この手を離す事ができない。
醜い私はこうして縋って生きなければ呼吸すらできなくなってしまう。
四年前よりも更に弱くなってしまった私は。
きっと中也さんの心に答えるのが正しい選択なのだろう。
それが最善なのだろう。
それでも私には如何しても忘れられない人がいるから。
あの人は私を忘れているかも知れない。
全部なかった事になっているかも知れない。
好きだと云った事も何もかも。
いっその事私も忘れてしまえたら良かったのに。

「いつかは手前の口からちゃんと答えが欲しい。それまで俺は待ってる」
「はい…ごめんなさい」
「謝ってんじゃねえよ」

時々この優しさに息が詰まりそうになる事がある。
優しすぎていい人だから、私なんかよりももっと相応しい人がいると思うと苦しくなる。
それなのに私は断らない。
何て卑怯なのだろうか。
何度彼に謝れば許してもらえるだろう。
如何すればこの罪を償えるだろう。
弱り果てた私の心はそれでも彼を離そうとしない。
四年前よりももっと自分自身が嫌いになった。









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