本当に中原さんと付き合っていないのですかと聞かれた瞬間食べていたケーキを落としてしまった。
目の前で不思議そうに首を傾げる可愛い我が後輩の樋口ちゃん。
全力で否定しておいたが、その必死さが逆に怪しいと云わんばかりに凝視されてしまい。
慌ててケーキへと視線を落とした。

樋口ちゃんは私よりも後にポートマフィアに入った後輩ちゃんだ。
と云っても中也さんの部下である私は、芥川君の部下である樋口ちゃんと直接関わりがあるわけではない。
女性構成員の少ないポートマフィアで唯一心の許せる同性の友人と云っても過言ではないだろう。
人気者である中也さんの部下をしている私はただでさえ他の女性構成員から疎まれる存在なのだ。
そんな状況下で同性の友人なんてできるわけがない。
しかし樋口ちゃんは違った。
妬みとか僻みとか、そんなものは一切なく。
普通に接してくれる。
向こうが私の事を友人だと思ってくれているかは分からないが、少なくとも仲はいい方だと思っている。
なので今もこうして非番が重なった時は所謂女子会と云うやつをしているのだ。

専ら話す内容は恋愛に関するものが多い。
主に樋口ちゃんが芥川君のよい処を嬉しそうに話しているのだが。
本当に好きなんだなあと微笑ましく思える。
付き合えばいいのにと思うが、樋口ちゃん曰く恋愛感情ではなく尊敬らしい。
どこからどう見ても恋愛感情にしか見えないのだが、本人は認めようとしない。
私からすればとてもお似合いで羨ましい限りなのだが。

芥川君について語る彼女に悪ノリしていたところ、冒頭のような事を聞かれてしまい慌ててしまったのだ。
無論中也さんと付き合っている事実はない。
よく聞かれるが全くそんな事はない。
むしろそんな噂が流れて中也さんが迷惑していないか心配なくらいだ。
告白されたとは云えあれから四年が経っている。
流石にもう私の事は何とも思っていないだろう、多分。
けど記憶喪失になった折は必死になってくれたし、その他諸々実際どうなの?と疑問に思う点はある。
だが誰が何と云おうと付き合っている事実はない。

「樋口ちゃん、私は付き合ってないからね」
「そうなんですか?端から見れば恋人同士にしか見えませんが」

真顔でそんな事云われると小恥ずかしい。
まあ確かにあんな素晴らしい人が恋人だったら幸せだとは常々思ってはいる。
告白されたのだから素直に答えたらいいと云われて当然だと思う。
中也さんを拒む理由なんて見当たらないが、それでも私が受け入れない理由はやっぱりあの人のせいだ。
散々人の事を振り回しておいて忽然と私の目の前から消えてしまった元上司だ。
ずっとモヤモヤしたこの気持ちも全部あの人のせいである。
あんなタイミングで告白されたら心に引っかかるに決まっている。
いなくなっても尚私の心を乱す存在なのだあの男は。
次会ったら絶対に殴る。

モヤモヤとしたまま店を出た私達は女の子らしく洋服を見ている。
職場が職場なだけに普段はお洒落はしない。
お洒落なんてする必要もない。
でも休日くらいはお洒落したい気持ちもある。
女の子なのだから当然だ。

店を見ていると綺麗な指輪を見つけた。
真紅の宝石が付いているその指輪に思わず見惚れてしまう。
大小のリングが揃って置いてあるところから察するにこれはペアリングなのだろう。
生憎お揃いで付ける相手がいない私は購入したところで虚しくなるだけだと思い断念した。
相手がいないのにペアリングを買うなんて悲しすぎて私にはできない。
指輪への思いを断ち次の店へと気を取り直して向かっている私達の近くに彼がいた事に鈍感な私が気づく筈がなかった。
そして彼がその店へと入った事も。
その事に気づくのは少し後になる。









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