朝からそわそわして落ち着かない私はひたすら執務室の掃除をしている。
ポートマフィアが苦戦するような相手と戦争をしていると云うのに私には何一つできる事がない。
ミミックに関して何かしようとするとすぐに太宰さんに止められてしまう。
今日もこうして掃除する以外は何もする事がないと云うわけだ。
先刻まで部屋にいた太宰さんはフラッと何処かへ行ってしまい置いてきぼりを食らってしまった。
大方ミミック殲滅の為に動いているのだろう。
私が行くと云ったところで連れて行ってくれる筈がない。
大人しく此処で帰りを待つしかなかった。

しかし何時間も掃除をすると云うのもなかなか地獄である。
飽きてきた頃、外の空気を吸いにでも行こうと思い立ち部屋から出て歩いていると、他の構成員の話し声が聞こえて来た。
世間話か、それともミミックの話か。
何にせよ私には関係ないと通り過ぎようとしたのだが、その内容に耳を疑った。
織田作さんの養っていた孤児の住んでいる場所が何者かによって爆破されたと。
確かに彼らはそう云っていた。
考えるよりも先に動いていた体は、急いで現場まで向かった。

私が着いた頃には消火活動が行われており、人だかりもできていた。
だが肝心の織田作さんの姿は何処にも見当たらない。
血眼になって探していると、立ち尽くしている太宰さんを見つけた。
何故か燃え盛る建物ではなく、別の方向を茫然と見つめている。

「太宰さん、織田作さんは…」
「織田作は、行ってしまったよ」
「知ってたんですね、この事を。知ってて私には何も云ってくれなかったんですね」
「君を連れて来たところで如何なるわけでもない。知らせる必要はないと判断したまでだよ」

私は蚊帳の外なのだと、決して足を踏み入れる事はできないのだと思ってしまった。
太宰さんは私の事なんて信頼してくれていないし、頼りにもしてくれていない。
部下なんて名ばかり。
結局最下級構成員だった頃と何も変わっていないのだ。
こんな使えない奴に云っても無駄だと思われていても仕方ない事だと云うのは痛い程分かっている。
けれど少しは信頼されていると思っていた自分が莫迦みたいだ。
そして何よりもそんな自分が悔しくて堪らない。
こんな緊急事態でさえも必要としてもらえないなんて。
これじゃ本当に彼の部下なのか疑ってしまう。

「織田作さんは何処に行ったんですか」
「私が君に云うと思うかい」
「太宰さんは、私の事を信頼してないんですか。だから何も云ってくれないんですか。私は…貴方の部下なのに…」

声が震える。
太宰さんに八つ当たりしても仕方のない事なのに。
別に彼が悪いわけじゃない。
悪いのは不甲斐ない私なのに。
この気持ちを何処にぶつけたらいいか分からない。
悔しくて悔しくて、私だって誰かの役に立ちたくて。
でも何もできない私には如何する事もできなくて。
もっと私に力があればよかった。
もっともっと強ければよかった。
そうすれば頼ってもらえたかも知れない。
役に立てたかも知れない。
誰かを救えたかも知れない。

「本部に戻ろう」
「…分かりました」

本部に戻った太宰さんはその足で首領の処へ行ってしまった。
織田作さんが何処へ行ってしまったのか、結局教えてはくれなかった。
一人執務室へ戻った私はただソファーに座って床を見つめ続けている。
凄く胸騒ぎがする。
何となくだが今織田作さんの元へ行かなければ一生後悔するような気がしてならないのだ。
だけど彼の居場所は分からない。
例え分かっていたとしても今の私に何ができると云うのか。
ぐるぐる回る思考を全て振り払い立ち上がった私は太宰さんの元へと急いだ。

小走りに廊下を進んでいると反対側から太宰さんが歩いて来るのが見えた。
その顔は暗く何だか怖く感じたが、今はそんな事如何でもいい。
恐らくこれから織田作さんの処へ向かうのだろう。
連れて行ってくれと頼んでも連れて行ってはくれない事は分かっている。
ならば無理矢理にでもついて行くしかない。
どんな手を使ってでも織田作さんの処へ行くのだ。

「織田作さんの処へ行くんですよね」
「教える必要はないよ」
「またそうやって…前に太宰さん云いましたよね、お前の上司だって。だったら部下の私には教えてくれたっていいんじゃないですか。何で頼ってくれないんですか。そりゃ私は役立たずだって分かってます。それでも少しくらいは何かの役に立ちたいんです」

ため息をついた太宰さんは私に近づいた。
寸前までやって来ると顎を掴み上を向かせる。
更に顔を近づけた彼は何も云わずに唇を寄せた。
幾度となくこうしてはぐらかされて来た私だ、もうその手には乗るまいと彼の胸を両手で力いっぱい押すと一歩後退した。

「そうやって誤魔化すのはやめてください。私は真剣に」
「ならば本当の事を君に教えよう。私が如何して何も云わないか、それはね。危険な目に遭って欲しくないんだ」
「そんなの、ポートマフィアにいる以上は覚悟の上です」
「君は何も分かっていないね。私がただ危険な目に遭わせたくないからと云う理由だけで部下に何も云わないと本気で思っているのかい」

太宰さんの云っている事が何も理解できない。
危険な目に遭わないなんてこの世界にいる以上避けられない事だ。
そんなの綺麗事なだけで結局は役に立たないから云っても仕方ないと思われていると云う事なのだ。
つまり部下としてきちんと認めてもらっていないのだ。

一歩後退したままだった太宰さんは再び私に近づいた。
そして今度はそっと抱き締める。
離せと云わんばかりに暴れるが力が強く抜け出す事ができない。
更に腕に力を込めた彼は耳元で囁いた。

「君を愛しているからだよ。部下としてではなく、一人の女性として心の底から愛しているんだ。だから私は君に傷ついて欲しくない。危険な目に遭って欲しくない。私はなまえを守りたいんだ」
「な、何を云って…」
「さて話はこれまでだ」

首筋に強い衝撃を与えられた私は目の前がぐらりと揺れその場に座り込んでしまう。
段々と意識が遠のいていく。
気を失ってはいけないと思いつつも朦朧とする意識を止める事はできない。
意識を失う前に太宰さんが何か云っていたが、その言葉が私に届く事はなかった。









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