私達が病室に着いた時には織田作さんはベッドの上で眠っていた。
敵の罠に嵌まってしまい毒に侵された為に病院に運ばれたと云う。
症状は軽いので命に別状はないと聞いた時には安堵し体の力が一気に抜けた。
若し織田作さんの命が消えてしまうような事があれば、私はとても生きていける気がしない。
本当にそうなってしまったら…その考えが浮かんだが考えるのをやめた。
織田作さんは生きている。
目の前でちゃんと彼の心臓は動いている。
最悪の状況なんて何処にもないのだ。
もう何も心配する必要はない。

ベッドの脇に太宰さんと二人で座り眠る織田作さんを見つめている。
規則正しく呼吸に合わせて動く胸元。
織田作さんがこうして倒れるなんて思ってもみなかった。
今回の敵組織はそれ程までに脅威なのかと竦んでしまう。
如何かこの先もう誰も傷つかないようにと祈る事しか今の私にはできなかった。

病院に搬送された連絡を受けてからずっと気が気ではない私を隣で見ていた太宰さんは不意に私の頭に手を乗せた。
心配で如何にかなってしまいそうな私を見兼ねたのだろう。
彼の方を振り向くと穏やかな表情を浮かべ、織田作は生きていると云った。
今にも泣き出しそうに顔を歪めている私に何度も大丈夫だと告げる。
その度に振り子のように頷いていた。

織田作さんの目が開いたのはそれからすぐの事で。
二つの瞳がこちらを映した時、思わず抱き着いてしまった。
私の頭を撫でながらゆっくりと起き上がった織田作さんは、現場で何があったのかを話し始めた。
彼曰く坂口さんがあの場にいたらしく、けれど黒ずくめの男達と闇に消えてしまったらしい。
黒の特殊部隊だと太宰さんは云う。
ポートマフィアが戦っているミミックとはまた別の組織。
しかし今は無視をしてもよいと太宰さんは付け加えた。

現在も抗争が起きているが、その鎮圧に芥川君を始めとする武闘派構成員が戦っている。
けれど敵の情報があまりにも少なくこちらの不利な状況は続いていた。
抗争の話を聞いた織田作さんはベッドから出ると拳銃を手に取りそのまま武装した。
首領がミミックを全戦力をもって迎撃すると云う決定を下したのなら自分も行かなければならないと。
苦戦している後輩がいるのなら助けが必要だと。
織田作さんは病室の扉の前で云った。

「人殺しをしない織田作は抗争なんて興味ないと思っていたよ」
「ない。けど借りの多い人生だからな」
「織田作さんが行くのなら私も!!」

椅子から立ち上がった私はその後を追おうとしたが、踵を返しこちらを向いた織田作さんに止められしまった。
お前は来るなと、太宰の傍にいろと。
そう云われてしまった。
パタリと扉が閉まり茫然と立ち尽くしていたが、来るなと云われてもそんなもの聞ける程私は利口な人間ではない。
扉に手を掛け開けようとしたが、太宰さんに名を呼ばれまたしても止まってしまう。

「止めないでください」
「行って如何する。君が行っても足手まといになるだけだ」
「それでも何かの役に立ちたいんです」
「ならばこれは幹部命令だ。君は此処に残り給え」

命令なんて云われたら何もできなくなってしまうのに。
そんな事を云うなんてずるい。
行ったところで何の役にも立たない事は自分が一番分かっている。
大した異能力も戦闘力も持っていないのだ。
こんな私が戦場に出て一体何ができると云うのか。
けれどそれでも私は行きたかった。
織田作さんは借りの多い人生だと云っていたが、それは私だって同じだ。
織田作さんよりも遥かに借りがある。
一度も返せていない借りだ。
こんな時に返さずにいつ返せばいいと云うのか。

「太宰さんはずるいです。命令で縛るなんて」
「そうかも知れない。けど、君に何と思われようとも行かせるわけにはいかないんだ」

分かってくれと云ったその顔はいつも以上に真剣なものだった。
太宰さんは扉を見つめたまま動こうとしない私を背中から抱き締める。
何処へも行かないようにと閉じ込めているような気がした。
静かな部屋で、彼の息遣いだけが私の耳へと届いている。
抱き締めた腕の力が緩まる事は決してなかった。
どれだけ駄々をこねようとも行かせてはくれないと悟った私は諦め、太宰さんの方へと向き直した。
何も云わずお互いに見つめ合う。
以前に怪我を負った包帯で覆われている右目に無意識に手を伸ばすと、彼の指が絡みついてきた。
この傷は己で付けたものだ。
他の傷も、殆どが自殺をしようとして負った傷。
痛くはないかと問うと、痛いよと笑って答える太宰さん。
この人は如何してこんなにも死にたがるのだろうか。
何度失敗しても何度も同じ事を繰り返す。
いい加減死ぬ事を諦めてしまえばいいのに止めようとはしない。
生きる理由が分からないと云っていたが理由がなくても人は生きている。
逆に死にたい理由は一体何なのかと、いつも不思議に思っていた。
繰り返し行われる無意味な行動には何の意味があるのか。
その問いの答えは未だ分からないままだった。









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