カレーを食べに行こうと唐突に太宰さんに云われた時の顔は酷く間抜けたっだと思う。
仕事を終え執務室に戻って来ていきなり云うものだから驚くに決まっている。
何を云い出すんだこの人はと思っている間にも私の手を引き急かす太宰と云う名の上司。
そんな気分ではないと控えめに云ってみるもののお前の意見なんて知るかと云わんばかりに総スルーを決め込まれる。
何か裏があるのではと何だか怖くなって私は自分なりに精一杯抵抗してみるも虚しく連れ出されてしまった。
お前と違って私にはやる事がたくさんあるのだよこんちくしょう。

見るからに超がつく程高そうな黒塗りの車に押し込まれた私はため息をつきつつも大人しく従う他なかった。
心中は一人では〜なんて意味の分からない歌を歌いながら上機嫌に運転する太宰さんの意図が分からぬまま車はどんどん進んで行く。
彼の部下になってからと云うもの振り回されっぱなしである。
いつか絶対に仕返しをしてやると常々思っているがいつも仕返しをできない。
仮に仕返しをしたとしてその後私は如何なってしまうのかと考えると太宰さんに何かをするなんて事は恐ろしくて実行に移そうと思えないのだ。
けれどいつか必ず日頃の恨みつらみを仕返ししてやる、倍返ししてやるからな。

車が停まった先は見慣れた店の前だった。
以前に織田作さんと訪れた事のあるお店。
ここに織田作さんの養っている孤児の子ども達が暮らしているのだ。
私もその子達と遊んだ事がある。
遊ばれた、と云った方が正しいとは思うが。

店内に入るとカウンター席へと腰を掛ける。
店主であるおやじさんに久しぶりだねなんて云われながら美味しいカレーを注文した。
ニコニコと人当たりの良さそうな笑顔を向けながら出されたカレーからはとてもいい匂いがしている。
先程の不機嫌などすっかり吹っ飛んでしまった私は一口口の中へと迎え入れた。

「辛っ、辛いよおじさん。これ隠し味に溶岩でも入ってるの」
「織田作ちゃんはいつもそれ食べてるよ」
「太宰さん実は甘党だったりするんですか?」

彼にしては珍しい顔を晒しながら太宰さん曰く辛いカレーを黙々と食べていると、織田作さんが店内へやって来た。
おやじさんに子ども達の様子を聞かれ普段通りの声のトーンでいつも通りだと答えていた。
織田作さんの養っている孤児の子ども達は竜頭抗争で親を亡くした云わば被害者だ。
優しい彼は見兼ねて今でも面倒を見ている。
私も太宰さんの部下になる前は時々遊びに来ていた。
それはそれは元気な子ども達で遊んでいるつもりがいつの間にか私が遊ばれている、と云うのが常であった。
親を亡くし塞ぎ込んでいた頃に比べれば元気になってよかったと喜ばしいが、少々元気がよすぎる。
私も親を亡くしているので自分と重ねてしまい放っておけない為、遊ばれていてもつい許してしまう。
織田作さんにはいい玩具だと笑われてしまったけれど致し方ない。
決して殺さず孤児を養っている織田作さんを太宰さんは一番変わっていると云っているのに対して当の本人はお前程じゃないと云い返していた。
そして私にもとばっちりが来るのは必然。
一番変わっているのは私だと云う結論に至ったのだ、解せぬ。

織田作さんがおやじさんに子ども達の当面の生活費だと茶封筒を渡している隣で半ば無理矢理太宰さんの口にカレーを入れているのは他でもない私である。
辛いと顔を歪ませている太宰さんを見ていると気分がいい。
普段はこんな顔を見る事などできないのだから虐めているようで楽しいのだ。
お前らカップルかなんて突っ込みを入れた織田作さんには断じて違うと精一杯の否定をしておいたが。
太宰さんはそう見えるかい、と嬉しそうな様子に腹が立ち再びカレーを放り込んでやった。
そしてやっぱりカップルじゃないかと本日二度目の突っ込みを頂いてしまった。
断じて違うのできちんと否定はしておいた。

「今日来たのは例の件だな」
「そう…です…結論から云うと、彼らは海外の異能犯罪組織だ」

太宰さんが云うには欧州からわざわざ日本に遠路はるばるやって来たらしい。
目的は金だと推測されるが、断定はできない。
そして彼らの兵の練度が高すぎる理由は、軍人崩れであるからだ。
組織の親玉は強力な異能力を保持していると云う情報もあるが内容まではまだ分かっていないようだ。
我らが首領に報告したところ太宰さんに指揮権が委ねられたと云うわけなのだ。
指揮権を得た太宰さんが何も動かないわけがない。
早速罠を仕掛けたと楽しそうに笑っている。
そして鳴り響く着信音。
電話に出た太宰さんが口にしたのは、鼠が罠にかかった。

と云う塩梅に機嫌がよかった太宰さんだったが、罠にかかった鼠さんを拷問しているであろう場所へと辿り着くと変わり果てた姿になっている鼠もといミミックの構成員を見た彼の顔からは笑顔が消えた。
説明によれば捕えたまではよかったらしい。
しかしこの拷問場所へと気絶させ連れて来たが思ったよりも早く一人の目が覚めてしまい他の構成員を殺した後に襲い掛かって来たと云う。
そこで芥川君がそいつを殺したと、靴音を鳴らしながらやって来る本人が自己申告した。
計画通りにいっていた筈なのに芥川君が台無しにしてしまったのだ。
その行動を一応は褒めている太宰さんだが声色は滅茶苦茶怖い。
嫌味っぽく若し生きていれば貴重な情報を引き出せたと云っているが、そんなの知った事ではないと云わんばかりの態度を取る芥川君の顔面に鉄拳を食らわせたのはお怒りの太宰さんだった。
華奢な体が後方へと吹っ飛ぶが、流石は芥川君。
体制を立て直し地面に倒れ込む事はなかった。
しかし血を吐いている。
拳銃を部下から受け取った太宰さんは銃口を何の迷いもなく向けた。

「私は正しさの方から嫌われた男だ。そう云う男はね、使えない部下をこうするんだ」

引き金を引き飛んだ銃弾は芥川君には届かなかった。
彼の異能力である羅生門で空間を喰らい弾丸を止めたのだ。
今まで一度だって成功はした事がなかったが、初めてこの土壇場で成功させた、本人が一番驚いている。
次しくじったら二回殴って五発撃つ、なんて本気のトーンで云うもだから私の背筋まで凍ってしまった。
その場が凍り付いている中、こんな時でもやはり殴られ撃たれた彼が気になってしまう私は空気なんか読まずに駆け寄ってしまい。
大丈夫と声を掛けてしまうのだから太宰さんの機嫌はますます悪くなってしまった。
ハンカチで芥川君の口元の血を拭っていると、いつもの倍程の力で引っ張られその勢いで立ち上がってしまう。
びっくりした私は太宰さんの顔を見るがこれまでにないくらい怒った顔をしていた。

「そんな愚図を気遣う必要が何処にある」
「でも、血を吐いてるし…」
「一体いつから君はこいつの部下になったんだい?」

なまえの上司はこの私だ、と耳元で低く囁かれ唇が震えた。
相当お怒りのようだ。
こればかりは目が泳がずにはいられない。
微かに震えている私の肩を抱き慰めるかのようにキスをした太宰さんは離れた後、今は死体になってしまった男達の元へとやって来た。
もちろん私の手は繋がれたままだ。
何か手掛かりはないかと部下と共に死体を隅から隅まで探し始める。
すると靴底に付着している葉っぱを見つけた太宰さんはニヤリと笑った。
こんなものが手掛かりになるのかと不思議に思ったが、あれよあれよという間に特定してしまった彼を見て超能力者かと驚いてしまう。
まあ異能力者なのだが。

織田作さんに突き止めた場所を電話で知らせると、これでとりあえず太宰さんから離れられると思った私が間違っていた。
執務室に戻るや否やソファーへと早業かと突っ込みを入れたくなるような速さで押し倒されてしまった。

「なまえは芥川君をやたらと助けたがるけど、まさか彼に気でもあるんじゃないだろうね」
「はい?そんなわけないじゃないですか。太宰さんが酷い仕打ちをするから私が手当てしようとしているだけです」

何を云い出すのかと疑問符を浮かべている私の唇を指でなぞった彼は更に顔を近づけた。
あと数ミリでも動けば唇が当たってしまいそうだ。
彼が何を考えているのか、皆目見当もつかない。
君は何も分かっていないと云われたが、何を分かれと云うのか。
そもそも私がこうして押し倒されている理由も問い詰められている訳も何も分かっていないのだ。
その上太宰さんの意図する事を分かれなんて無理がある。

強引に押し倒されたせいで乱れてしまった私の服の釦は少し外れてしまっており、そこから下着が覗いている。
首筋に指を這わせるその行為に少しだけ声が出てしまった。
以前襲われた時の事を思い出してしまい、またやられると目を瞑ったが覆いかぶさっていた体はあっさり離れてしまったのだ。

「君を傷つけるような事はもうしない」

ソファーから起き上がり座っていた私の隣へ腰かけた太宰さんは抱き寄せ頭を撫でる。
その心地よさにうっとりしている処に一本の電話が掛かって来た。
織田作さんが何者かにやられ病院に運ばれたと云う知らせだった。
知らせを受けた私の衝撃は想像以上のものでその場から動けない。
動揺しているのだろう、固まっている私に大丈夫だと言い聞かせる太宰さん。
手を取り急ぎ足で病院へと向かった。









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