※織田作視点



なまえが楽しそうに話している時によく出てくる名前がある。
俺は実際その男に会った事はないが、話を聞いている限りではいい奴らしい。
会った事がないだけで存在自体は知っている。
むしろポートマフィアでその名を知らない奴はいないだろう。
太宰と同じく双黒と呼ばれ恐れられている存在。
中原中也と云ったか。
最下級構成員の俺が準幹部に会う事はそう容易くはない。
太宰のように親しい友人でなければ尚更だ。
本部ビルにいる時に会うのは困難である為、外に出ている隙に会うしかないだろう。
何とか居場所を突き止めた俺は莫迦な事を云って怒られないだろうかと心配しつつも目的地へと向かった。

向かった先は使われていない古びた倉庫だった。
血の跡があちこちにこびりついている為ここで何があったのが一目瞭然だ。
なまえ曰くいい奴らしいが、実際聞いている話だと攻撃的でおまけに短気らしい。
短気と云うのは太宰に聞いた話だ。
とんでもない奴でなければ話くらいは聞いてくれるだろう。
奥へと進むと風に黒い外套を靡かせた小柄な黒帽子が立っていた。

「んだ手前は」
「俺は最下級構成員の織田作之助だ。お前が中原中也か?」
「最下級構成員が俺に何の用だ」
「頼みたい事がある」

俺の言葉に眉を潜める中原。
無理もない、俺のような者が準幹部に話しかけるなんて事は基本的にはあり得ない。
なまえは莫迦で何も考えていないから初めから呑気に話しかけていたようだが。
それでも俺は云わなければならない事があった。
他の誰でもない、中原にしか頼めない事だ。
これは俺の勘だが、中原ならきっと約束を守ってくれると思っている。
俺にとっても、そしてこいつにとっても大事な奴の事を頼むのだから。

「中原はみょうじなまえと親しいと聞いた。そんなお前だから頼みたい。若し俺の身に万が一の事があればその時はなまえを頼む」
「そうか、手前はあいつの先輩か」
「ああ、そうだ。俺はあいつの事を妹みたいに思っている。俺が傍にいてやれるのが最善だとは思うが、この先何が起こるか分からない。そんな時にあいつを支えてやって欲しい」

こんな世界にいるのだ、いつ何処で死んでも可笑しくはない。
きっと俺が死ねばあいつは凄く悲しむだろう。
後を追って死のうとするかも知れない。
俺が死ななければいい話だが、俺も万能ではない。
絶対に死なないと約束はできない。

太宰に頼めばいいのだろうが、あいつは俺の友人だ。
俺がいなくなった時に太宰も如何なるか分からない。
後を追う事はしないと思うが、なまえの傍にいられる状況にないかも知れない。
だったら誰がなまえを支える。
それができるのは目の前にいる中原しかいないだろう。
話を聞いている限りでは中原も太宰と同じでなまえを好いている。
なまえは鈍感だから気づいていないだけだ。
双黒から愛されるなんてあいつはとんでもない奴だ。

「手前に云われなくても俺はあいつの傍にいる。なまえが悲しんでいたら俺が支えてやる。それは誰の為でもねえ。俺があいつにそうしてやりたいと思ってるからやるだけだ」
「そうか。それを聞いて安心した。やはりお前に頼んでよかったよ」

なまえはいつかこの二人の気持ちに気づくのだろうか。
気づいた時にどんな選択をするのだろうか。
自分が思っている以上にこいつらのなまえに対する思いは深いと思う。
どちらを選ぼうがそれはなまえの自由だ。
ただ俺は幸せになってくれればそれでいい。
その為にできればこの先もずっと傍にいてやりたい。
そうする為に俺は最善を尽くすつもりだ。
なまえの悲しむ姿は見たくない。
その気持ちは太宰も中原も同じだろう。
太宰は既に泣かせてしまったが。

なまえは自分には何の力もない非力な人間だと思っているがそれは大間違いだ。
現にこうしてあいつに影響され変わろうとしている人間がいる。
きっとそれがなまえの持つ力なのだろう。
あいつだから惹かれ傍にいてやりたいと思うのだろう。
お前は非力でも何でもないよ、凄い奴だ。

「織田とか云ったか。何でわざわざんな事を云いに来たんだ」
「さあな。俺にも分からん。けど何となく云っておかなければならないと思っただけだ。ただそれだけだよ」

中原はまだ何か云いたげだったがそれ以上は何も云わなかった。
その場を後にした俺はその足でいつもの店へと向かった。
あの場所に行けばあいつらに会える予感がしていた。
会って何をするわけでもないが、ただ何となく向かおうと思った。
立場を越えてただの友人でいられるあの場所へ。

扉を開けるとそこにはグラスをカウンターに置き指で弾いている太宰がいた。
傍らには猫が座っている。
俺が来るや否やその猫は場所を移動した。

「悪いね、先生」
「先生?猫がか?」
「賢そうな顔してるじゃない。お客が来ればちゃんと席譲るし」

それより聞いてよ織田作と、楽しそうに話しだす太宰の体にはまた包帯が増えていた。
銃撃戦があったらしく、その内容を楽し気に太宰は話す。
増えた怪我について聞くと転んでできた傷らしい。
こいつが任務でヘマをするわけがないか。
転んだ理由が急いでいたのならまあ仕方がないだろうと納得した。
先程まで楽しそうに話していた太宰は相手がパッとしない連中だった為また死にそびれたとつまらなさそうに云った。
なまえがこの場にいたのなら怒っていたに違いない。
隣で死について語り出す太宰を殴り飛ばしていたかも知れない。
あいつならやりかねない。
太宰の話を聞きつつぼんやりとなまえの事を考えていた。









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