本日の天気は快晴。
お陰で朝から私のテンションも上がりっぱなしだ。
今日なら太宰さんに何をされても多少の事なら躱せる気がする。
どっからでも掛かってこーい。

そんな感じで執務室の扉を開けたのだが、勢いよく閉めた。
如何やら開けてはいけない扉を開いてしまったようだ。
太宰さんお取込み中のようなので一先ず退散するとしよう。
扉から離れようと踵を返した時だった。
再び開いた扉から伸びてきた手に首根っこを掴まれてしまい、そのまま室内へと引き込まれた。
ゴキブリホイホイでもこんな引き寄せ方はしねーぞ。

錆びたロボットの如くギギギと音がしそうなくらい恐る恐る首根っこを掴んでいる犯人に顔を向けるとそこには満面の笑みを浮かべた大魔王様がいらっしゃった。
明らかに何かを企んでいそうな顔をしている。
入るタイミングを間違えてしまったと後悔しているが今更遅い。
私の後悔の理由は、彼の格好にある。
珍しく包帯を巻いていない太宰さんなのだが、そこが問題なわけではない。
シャツの釦を全て外し裸体がチラチラ見えている事に問題があるのだ。
物凄く厭な予感がする。

「うふふ、丁度いいところに来たね」
「何でしょうか…」
「包帯を巻き直しているのだけれど、手伝い給え」

差し出された真新しい包帯。
つまり私に巻けとそう云いたいのか。
厭過ぎて目の前の包帯野郎を殴って逃亡したい。
絶対巻くだけで終わらない事は目に見えている。
太宰さんの悪意を感じずにはいられない。

しかしながら立場上断り切れない私は泣く泣く包帯を受け取ったのだ。
いくら待てど何故かシャツを脱がない太宰さんに更なる厭な予感がする。
彼は脱がしてと云い放ったのだ。
今日の私はとても冴えている。
絶好調で太宰さんの意図している事が分かってしまう。
だったら扉を開ける前に分かりたかった。

仕方がないとシャツに手を掛ける。
案外すんなりと脱がせてくれると感心したのも束の間。
脱がせていた私の腕を掴んだ太宰さんは、あろうことか私の服に手を伸ばした。
いやいや何をしているんだこの人は。
この状況でなぜそうなる、全く意味が分からんぞ。

「何ですかこの手は」
「私だけ脱がされるなんて不公平だとは思わないかい?」
「不公平って…脱がせたのは貴方ですよ」

服を守らんとする私の手と奪おうとする彼の手との壮絶な戦いが始まった。
しかし呆気なく幕は閉じてしまう。
無駄に器用な太宰さんはどんな裏技を使ったのかいとも簡単に脱がせてしまったのである。
上半身裸の太宰さんと辛うじて下着は身に着けている私。
他の人にこんなところを見られでもしたら変な勘違いをされてしまう。
頼むから誰も来るなよ。

次に一体どんな攻撃が来るのかと身構えていたが、胸を揉むその行動があまりにも自然過ぎて一瞬固まってしまった。
ごく自然に、当たり前のように揉み始めるのだから何が起こっているのかほんの少しの間だけ分からなかった。
邪魔だと云ってホックに手を回す太宰さんは静止を振り切り慣れた手つきで外してしまう。
悲しくも床へと落ちていく私の下着。
そろそろこの上司をセクハラで訴えてもいいだろうか。

「何脱がせてんですか!?」
「なまえが可愛くてついね」
「ってまた揉むな!!」

ギュッと抱き着いた来たかと思うと胸元に顔を埋めそのまま胸を舐め始めた。
頭を引き離そうと力を込めるが、胸の先端に歯を立てられ力が抜けてしまう。
まるで赤子のように先端を吸う彼の行為は激しくなっていく。
空いたもう片方の胸は指で愛撫している。
足が震えて来て力が入らなくなった私は地面に倒れ込みかけるが、その前に抱きかかえた彼によってそのままソファーへと連行されてしまった。
寝かされたソファーの上、しつこく胸を責め続けている。
びくびくと跳ねる体に満足そうに笑った太宰さんに腹が立ち思いっきり腹に拳をぶちかましてやった。

「いい加減にしろ!!包帯巻いて欲しいのか巻いて欲しくないのかどっちなんですか!!」
「今のパンチはなかなかよかったよ…」

悪かったと謝りつつ服を着せてくれる彼を睨みながら包帯を巻き始める。
きちんと太宰さんの裸体を見るのは始めてなので、あまり気に留めていなかったが。
体のあちこちに痛々しい傷がある。
首には縄で締めたような跡まで残っていた。
これらは自分で付けた跡なのだろう。
殆どが自殺に失敗した跡。
傷に指を滑らせるとくすぐったそうに声を漏らした。

「痛々しいと、莫迦だと思う?」
「思いますよ。大莫迦だって。何で自ら死を選ぼうとするんですか。どうせいつか必ず死ぬのに、何で」
「この世界に生きている価値なんてあるのかい?私にはそれが分からない」

何の感情も映していないこの目が私は苦手だ。
この世の全てに絶望し諦めているかのようなこの瞳が。
あの時の父や母と同じ目をしている太宰さんを見ているのが辛い。
生きている価値なんてないと自ら命を絶ってしまった両親と残されてしまった私。
何度も思った、如何して私も連れて行ってくれなかったのかと。
何故置いていってしまったのかと。
昔、母に云われた事がある。
まだ私が幼いころの話だ。
父のギャンブル依存症が酷く借金が膨大な額になってしまった事を知ったあの日。
母は私に向かってこう云ったのだ。
「役に立たないお前なんか産まなければよかった」と。
そして悟った、置いていかれたのは私が役立たずだからだと。
産まれて来るべきではなかったのだと。

「過去の事でも思い出しているのかい」
「…」
「どうせ君の事だ。自分は役立たずで産まれて来なければよかったと思っているのだろう。けどそれは大間違いだ。君を必要としている人間は存在する」

私とかね、と笑ってみせた太宰さんは包帯を巻き終えた私の手を握った。
その温かい手に涙が溢れて止まらない。
中也さんにも太宰さんにも私は必要とされている。
必要としてくれている。
些細な事だと笑われるかも知れない。
そんな事でと莫迦にされるかも知れない。
だけど今まで必要とされて来なかった人生を歩んで来た私にとっては嬉しくて堪らなかった。

有難うございます、とその言葉しか云えなかった。
胸が一杯で苦しかった。
云いたい事は山ほどある筈なのに、上手く言葉にできなかった。
いつまでもいつまでも優しく頭を撫でてくれるその手に縋って泣いていた。









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