最近他の組織に不穏な動きがあるらしいと私の上司である太宰さんが至極面倒臭そうに愚痴を零していた。
ああ面倒だ面倒だ、と事あるごとに私に云ってくる。
私に云われても困るのだが。(実際に本人には云っていない)
ちょっと厄介な組織らしく、もっと大事になる前に何とか潰してしまいたいと云うのが首領の考えらしい。
そこで指揮を任されたのが我らが太宰様と云うわけだ。
まあ私には何の関係もない案件なのだが。
そんな大きな仕事は私みたいなへなちょこが携わる事なんてない、そう思っていた。

そして現在に至る。
暗闇に聳え立つ不気味な建物。
何故私はこんな処にいるのだろうか。
もちろん私一人でこんな物騒な処にいるわけではない、きちんと目の前にもう二人立っている。
裏社会でその名を聞かない者はいないであろう双黒のお二人だ。
まさかこの私が双黒と一緒に仕事をするなんて思っていなかった。
と云うか私に一体何ができると云うのか。

「あの…私は如何してこんな処にいるのでしょうか」
「君一人だけぬくぬくと室内で仕事だなんてこの私が許さない」
「何じゃそりゃ…本当私の異能力なんて大した事ないので役に立ちませんよ。むしろ足手まといになりますよ。帰っていいですか」

意味の分からない理由で連れて来られた哀れな私。
若しかしたら今日が命日になるかも知れない。
織田作さんにお別れを云ってくればよかった。
本当に無念だ。
こんなくだらない理由で連れて来られた挙句犠牲になってしまうなんて。
死んだら絶対に毎日太宰さんの枕元に立ってお経を唱えてやるから覚悟していろ。

「ったく手前は勝手過ぎんだろ。少しはこいつの気持ちも考えてやれ」
「だったら此処に置いて行くのかい?いつ敵に襲われるかも分からない場所に一人残すなんて中也は酷い男だねえ」
「手前だけには云われたくねえよ」

美味しいお菓子を奢ってあげよう、なんて話に乗ってしまった私が悪いのだ。
太宰さんの話を鵜呑みにしたこの私が。
何卒莫迦な私を葬ってください、今すぐ逃げるか死にたい。
過去の自分に恨み言を云いつつも逃げられる状況ではない事に絶望しかなかった。
突然私の異能力が最強にでもならない限り生きては帰れないだろう。
触れたものを浮かせる異能力が突然変異でもしてかめはめ波にならないだろうか。
某亀のつく仙人の処で修行すれば私も撃てるようにならないだろうか。
誰でもいいからオラに力を…

「ンな不安そうな顔してんじゃねえよ。連れて来たのはこいつだが、連れて来ちまった以上は責任持って俺が守ってやるから離れんじゃねえぞ」

やばい今キュンてした。
恋に落ちる音がしたぞ。
今なら中也さんに抱かれてもいい。
どうぞ私を抱いてください。

全世界の女性が憧れるであろう科白に胸をやられた私にはもう中也さんしか見えなくなっていた。
それが不服だったのだろう、全ての元凶である太宰さんに肩を鷲掴みにされてしまい。
振り向くと大層恐ろしいお顔をしてらっしゃったので思わず冷や汗が流れた。

「安心し給え。例え中也が不幸な事故に見舞われこの世から消えてなくなろうとも私が君を必ず守ると約束しよう」
「アリガトウゴザイマス…」

不幸な事故の部分を自棄に強調した太宰さんの顔は満面の笑みを浮かべていた。
それはもう気味が悪い程の笑みを。
敵の組織よりも目の前にいるこの人の方が何百倍も怖い。
変な事をしたら敵ではなくこの人に消されそうだ。
いろんな意味で来るんじゃなかった。
とても逃げたい。

「おい糞太宰。この俺がヘマするとでも云いたいのか?あ?」
「君だって万能じゃないんだ。不幸に見舞われてうっかり死んでしまうかも知れないよ」
「ああそうかよ。だったら不幸に見舞われる前に手前を始末してやるよ」

何で乗り込む前に喧嘩を始めるだこの二人は。
これではいつまで経っても乗り込めない。
それにこんな建物の前で堂々と喧嘩をしていたらいつ敵に気づかれるか。
莫迦なのか?ねえ莫迦なの。

そしてその不安は的中してしまった。
建物内からたくさんの武装した兵士が出て来てしまい、あっという間に囲まれてしまった。
だから云わんこっちゃない。
ああ本当に死んでしまう。
私は慌てふためいているが、双黒の二人はまったく動じていない。
喧嘩を止め攻撃をしてくる相手を次々に倒していく。
その姿を中也さんに戦わせ後ろで見守っている太宰さんの腕の中から見物しているのは怖くて半泣きになっている私だった。
太宰さんは私を背後から抱きしめたまま戦おうとはしない。
時折こちらに向かって来ようとする敵に銃弾を食らわせる程度だ。

全ての敵をほぼ一人で倒した中也さんの顔は相当怒っていた。
普段の倍くらい怖い顔をしている。
そんな中也さんの事なんてお構いなしに、行こうかと云った太宰さんは私の手を引いて建物の中へと入って行った。
鼻歌混じりな太宰さんに対し私は泡を吹いて倒れそうな気分だった。









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