翌日の朝、私は普段通りの時間に太宰さんの執務室の前へとやって来ていた。
きちんと話をすると織田作さんと約束をしてしまった以上は怖いけれど行くしかないだろう。
昨日の事を思い出すとまだ足が竦んでしまう。
織田作さんには笑って答えていたが、いくら能天気とは云えあんな事をされて怖くない筈がない。
若しまた同じような事をされたらと考えると体が震えてしまう。
でも約束は果たさなければならない。
意を決して扉を開いた。

太宰さんは壁に置いている本棚の前に立っていた。
こちらに背を向けている為、今彼がどんな顔をしているのかは分からない。
一応挨拶をしたが応答は一切なかった。
不機嫌なのだろうか。
しかし不機嫌になられる理由がこちらにはない。
むしろ私が不機嫌になる理由の方が大いにある
とりあえずもう少し近づこうと彼の方へ歩み寄ると、太宰さんが方向転換して私を見つめた。

「何故来たのか私には分からないのだけど」
「太宰さんときちんと話に来ました」
「今更君と話す事なんて何もない」

視線を逸らす太宰さん。
そっちになくてもこっちにはあるんだよ、大魔王め。
いつもみたいな余裕の笑みはなく、悲しげな表情をしている。
この人でもこんな顔をするのかと思ったが、見慣れない分正直気持ち悪い。
人を莫迦にしては楽しんでいるいつもの太宰さんは何処へやら。
何だか調子がくるってしまう。
幹部様にこんな顔をさせるなんて私もなかなかのやり手ではないのだろうか。
これはみんなに自慢ができる。
だけど私はこんな顔の太宰さんよりも、普段通りの彼がいい。
別にマゾと云うわけではないが。
断じて違う。

「太宰さんになくても私にはあるんです。腹を割って話そうじゃないですか」
「あんな事をされてよく私に会いに来れたものだ」
「その顔やめてくださいよ。何でそんな顔してるんですか。そりゃ確かに怖かったけど、でも私はあの程度で負けるようなヤワな女じゃないんですよ。能天気をナメないでください。それに太宰さんのそんな顔気持ち悪くて見てられません。いつもの余裕は如何したんですか。私はいつもの貴方が好きなんですよ」

手に持っていた本を机に置いた彼は、私の目前までやって来た。
突然の事にびっくりして体が反応してしまう。
大きな彼を見上げると包帯を巻いていない片目がジッと私を見据えていた。
今何を考えているのだろうか。
その瞳には何が映っているのか。
莫迦な私には彼の思考を読む事はできない。
でもこれだけは分かる。
昨日の事を悔いている。
だから彼はこんなにも悲しそうなのだろう。

「能天気ねえ。普通は怖くて近寄って来ないのに、君は何処まで莫迦なんだか」
「それが私の取り柄なんです。太宰さんに何をされたって私は貴方から離れませんよ」

腕を引いた彼は私をそっと抱き寄せた。
昨日みたいに乱暴にではなく優しく丁寧に。
まるで私を怖がらせないようにしているみたいに。
昨日の彼はとても冷たかったが、今日の彼はとても温かく感じる。
暫くお互いに何も云わずただ抱き合っていた。

「これから先、何度でも君を傷つけ悲しませるかも知れない。それでもなまえは私から離れないと云えるかい?」
「私は太宰さんに生きる理由を見つけて欲しいんです。それが見つかるまでは貴方が厭がっても離れたりしませんよ」
「…莫迦でお人よしで能天気で…そして…なまえはとても可愛い」

私の前髪を払いのけた太宰さんはそのまま額に唇を寄せた。
その表情からは悲しみの色が消え、いつもの彼が戻っていた。
やっぱり私はこの表情が一番好きだ。
意地悪で最悪な人だけど、でも悲しむ太宰さんは見たくない。
私に何ができるかは分からないけれど、せめて彼が悲しまないようにしてあげたい。
だって私は、彼の、優秀な部下なのだから。

優秀でしょと云ってみたが、それはないと即答されてしまい。
ムッとした私は怒っているのだと太宰さんの背中を叩いてみせた。
その行為に笑う彼の表情はいつも以上に穏やかだった。
そのまま横抱きにされた私はソファーへと連れて行かれ、静かに寝かされる。
この状況は何だと慌てて体を起こすが、上から覆いかぶさった太宰さんのせいで再びソファーへと戻される事になった。

「え、何ですかこの状況は」
「うふふ、君はいつもの私が好きだと云っていたからね」
「いやいやいや、ちょっと待ってください」
「だーめ、待てない」

このドS大魔王め、何でこうなるんだ。
それはもう楽しそうにご丁寧にゆっくり時間をかけて服を脱がせていく。
絶対にこれはわざとだ。
私が抵抗するのが楽しくてわざとゆっくり脱がせているに違いない。
やっぱりこの人は最低だった。
少しでも期待した私が莫迦だった。

ちゅっちゅっと厭らしく胸に何度もキスをする彼の頭を退けようともがくが、何の抵抗にもならず。
変態大魔王太宰はそれはそれは愉快そうに胸を揉み始める。
彼の手にかかれば抵抗し暴れている私から下着を剥ぎ取るなんてお手の物。
上半身に身に着けていたものは全て取り除かれてしまった。
失念していた、普段の彼はこうだった。
ド変態だった。
何でいつもの太宰さんが好きだなんて云ってしまったのだろうか。
時間を巻き戻してやり直したい。

結局声が掠れる程喘がされた私はやっぱりこんな奴の部下は辞めてやると改めて心に誓った。
廊下を通った何人かの構成員の人たちにほどほどにしておけと云われ赤面する羽目になってしまい、その時ばかりは太宰さんをぶん殴った。
それでも彼は笑っていたが。
ちなみに私は未だに処女を貫き通している。









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -