朝からとんでもない目に遭ってしまった。
中原さんに反応がいちいち可愛いと云われ続け恥ずかしさのあまりついには泣いてしまった。
流石の彼も泣き出した私を見て謝罪をしていたが、それでも可愛いと付け足され泣きながら怒ると云うよく分からない反応をしていた。
そんな目に遭いつつも朝食はきちんと作ったので褒めて欲しい。
凄く美味しいと食べてくれたので、今までの事は許そうなんて思っている能天気な私であった。

こんな事があっても仕事には行かなければならない。
休むなどとんでもない、そして遅刻ももっての外だ。
遅刻なんてした日には太宰さんから何と云われるか、考えただけでも恐ろしい。
中原さんの自宅から歩いて向かおうと思っていたのだが優しい彼は車に乗れと云ってくれた。
恐れ多すぎて断ったが半ば無理矢理車に押し込められ。
そのまま超高層ビルまで向かってしまった。

「中原さん、有難うございます」
「その中原さんてやめろ。名前で呼べ」
「いや、でも…」
「他人行儀で厭なんだよ」
「分かりました…ち…ち…っ…」

名前で呼ぶのがこんなにも恥ずかしい事だなんて知らなかった。
簡単に呼べと云うけれどなかなか勇気が要る。
いや、確かに簡単な行為だけれども。
名前を呼ぶ行為以上に恥ずかしい事なんてしてんだろと云われればそれまでだけれども。
でも恥ずかしいものは恥ずかしい。
苗字呼びで妥協してもらえないかと思ったが、そうもいかないらしい。
ここは腹をくくるしかないようだ。

「ち…ち…中也…さん…」
「これからはそう呼べ、なまえ」

今日は何度赤面すればいいのか。
赤面したまま一生治らないのではないだろうか。
これから太宰さんに会わなければいけないと云うのに。
頑張って治まれ私の顔よ。

人間の体とはきちんとできているものらしく。
本部ビルに着く頃にはすっかり普段通りの顔色に戻っていた。
なかは…中也さんとは別の階なので別れた後、気が重いが太宰さんの執務室へと歩みを進めた。
扉を開くと珍しくすでに太宰さんが執務室のソファーに寝転がっていたので珍しい事もあるものだと思いつつも自分の机へと座った。
ところまでは良かったのだが。
座るや否や、それまで寝転がっていた彼が急に立ち上がり力強く私の机に片手を乗せて来たのだった。
びっくりして思わず体が跳ねる。

「蛞蝓(なめくじ)と一緒の車に乗って来たようだけど、如何してかな?」
「えっ…如何してって…それは…た、たまたま中也さんと会って…」
「中也?いつから君はあれの事を名前で呼ぶようになったのか、私に分かるように説明してくれるかい」

顔は笑っているけれど目は笑っていない。
莫迦な私でも分かる。
物凄く怒ってらっしゃる。
いつも以上にお怒りだ。
何と説明すればいいのか。
本当の事を話せば間違いなく大変な事になる。
かと云って上手い言い訳が思いつかない。
如何すればいいのか。
恐怖に体が震えているのが分かる。

「えっと…それは…だ、太宰さんには関係ないって云うか…」
「関係ない?本気でそんな事を云っているのか?」
「え、それは…その…」

不味いますます怒らせてしまった。
怖くて目が合わせられない。
顔を見なくても彼が怒っている事が厭という程に分かる。
そのせいかやけに部屋の空気が冷たく感じる。
何と答えれば正解なのか教えてください。
このピンチを乗り切る方法を伝授してくれ。

「云いたくないと云うのなら、無理矢理にでも吐かせるまでだ」
「えっ…」

机から手を退けた彼はそのまま私の腕を掴んだ。
強く握られた部分に痛みが走る。
私の中の何かが早く逃げろと叫んでいるが分かったが。
しかしこの状況では逃げるどころではない。
執務室の奥にある扉を開けると、そこには仮眠室があった。
大きなベッドを目の当たりにした瞬間これから何をされるのか鈍い私にも分かってしまった。
扉に向かって逃げようとしたが、それ以上に強い力でベッドへと投げられてしまい。
バランスを崩した私はベッドへと倒れこんだ。
体制を立て直す前に私の上に覆いかぶさる太宰さん。
昨日は中也さん、今日は太宰さん、如何してこうも私は押し倒されてばかりなのか。
いや、そんな事を呑気に考えている場合ではない。
ネクタイを外しスーツの上着を脱ぎ捨てた彼の姿に恐怖しか感じなかった。
ここで今から起こるであろう事柄も、そして太宰さんの表情も。
その全てが怖い。

「私が拷問して吐かなかった捕虜はいない。知っていると思うけど」
「冗談ですよね…」
「私はこう云う冗談は云わない」

私の衣服に手を掛けつつ笑う彼は、優しく脱がせるどころか釦を全て引きちぎってしまった。
止める手は虚しく下着姿にさせられてしまった私は更に後悔する羽目になる。
昨日、中也さんに付けられたキスマークの事を忘れていたのだ。
私の鎖骨を見た太宰さんの手が止まり、眉間に皺が寄った。
しまったと思ったが、もう遅かった。

「これ、誰にやられたの?」
「それは…」
「まあ察しはつくけど。大体莫迦ななまえがこの私に隠し事なんてできると思ったのが大きな過ちだ」

覚悟しろと低い恐ろしい声で囁かれ、助けを求めようかとも思ったが。
端末は執務室にある鞄の中で眠っている事に気づいた。
助けも呼べない、逃げる事もできない。
一体如何やってお怒りになっている太宰さんを止めると云うのか。
腹を撫でるその手に震えが止まらなかった。









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