芥川君には何故か嫌われ、太宰さんにも相手にしてもらえず。
あの空間に私の居場所は完全になくなってしまった。
ちなみに云っておくが別に私のせいではない。
私自ら二人に何かした覚えなど毛頭ない。
勝手にそう云う対応をされているのだ。
そもそもそんなに煙たがるなら私を部下になんてしなければ良かったのだ。
だから厭だと云う反応を示したのに。
それを無理矢理部下にしたのは太宰さんに方だ。
それなのにこの扱いは酷すぎる。
首領に直訴してやりたいくらいだ。
無理だけど。

こんな具合で小一時間程、ご飯を食べに来た中原さんに愚痴っている。
一方的に主に太宰さんについてぶちぶちと文句を云っている。
お酒を楽しんでいる中也さんは私の文句に対して黙って頷いてくれていた。
中原さん自身もコンビを組んでいる割に太宰さんの事を良く思っていないようで。
云ってしまえば嫌いらしい。
まあ太宰さんとウマが合う人間なんて恐らく織田作さんくらいだろう。
あれくらい寛容で海よりも広い心を持っていなければ付き合っていられない。
私には到底無理だ。

「正直太宰さんの部下を辞めたいんですよね…居心地が悪いの何のって」
「俺が手前の立場なら即刻あの野郎をぶっ飛ばしてるに違いねえ」
「私もできる事ならぶっ飛ばしたいです」

この場にもし太宰さんがいたならば、私がぶっ飛ばされているに違いない。
しかし幸いな事にあの野郎はこの場にはいない。
つまり何を云っても許されると云う事だ。
言論の自由万歳。

けれど太宰さんが嫌いかと問われるとそこは少し悩むところだ。
そこまで嫌っているわけではない。
極稀に優しい時もある。
単に苦手だと云うわけだ。
あと、何となく嫌いになれないと云う部分もある。
放っておけないと云うか。
目を離すと消えてしまいそうな、そんな気がする。
太宰さんが消えたところで如何と云うわけでもないが、それでも腐っても上司だ。
部下なりに気遣いと云うものがある。
すぐに自殺しようとするし。
傍にいると疲れるし、やはり厭なものは厭だ。
できれば部下を辞めたいと云うのは本心である。

更に愚痴を零す私の横でひたすら酒を呷る中原さん。
すでに顔が赤くなっている。
ひょっとしてこの人も私と同じく酒に弱いのだろうか。
でも大量に飲んでいるしそんな事はないだろう。

「中原さん、酔ってますか?」
「あ?酔ってねえよ」
「…酔ってますよね」

やっぱり弱いタイプの人間だったのか。
店を出ましょうと酒から手を無理矢理離すと立ち上がるが、よろよろと机に倒れこみそうになっている。
この様子だと一人で自宅に帰れそうにない。
部下の人を呼びたいが連絡先を知らないので呼ぶ事はできない。
これは私が責任を持って送り届けるべきなのだろう。
呂律すら回らなくなってきている中原さんから何とか自宅の場所を聞き出すと、タクシーに彼の体を引きずりながら乗り込んだ。

止まった先は高級マンションの前だった。
流石は準幹部。
住んでいる場所が私と大違いだ。
おまけに部屋は最上階らしい。
酔いが回り船を漕いでいる中原さんを必死に部屋まで運ぶ。
ひょろい私が鍛えている彼を運ぶのにはそれなりに時間がかかった。
ベッドまで運ぶ頃には息が上がっていた。
任務も完了した事だし私もそろそろお暇しようと思ったその時。
強い力で後ろへと引っ張られたのだった。

「何処…行くんだよ」
「何処って、家に帰ろうと思いまして」
「誰が帰すかよ」

組み敷かれたベッドの上、酔った中原さんの目は飢えた獣そのものだった。
放り出されていた私の手に彼の指が絡みつく。
手に気を取られていた隙に唇を奪い取られてしまった。
無理矢理唇をこじ開け、舌を乱暴に絡ませてくる。
じたばたと暴れてみるが、力の強い彼を退かせる事はできず。
キスはどんどん激しくなっていく。
口の端から唾液が零れ落ちた頃、やっと唇が離れた。
お互いに息が荒い。
如何やって逃げようかと考えを巡らせていたが、答えを得るよりも先に中原さんの手が私の服の釦を外し始めた。
慌てて抗うが、その手も跳ね除けられてしまい、やがて全ての釦が外し終えたと同時に鎖骨辺りを彼の舌が這いずり回った。
くすぐったさに変な声が出てしまう。
時折吸い上げては再び舐めるその行為をひたすらに繰り返していた。

「中原さん…やめてください…やだ…あっ…」
「俺を拒むか?」
「えっ…」

頼むから拒むな、なんて悲しげな目で云われてしまっては抵抗しにくくなってしまう。
中原さんは大切な人だ。
失いたくない人だ。
だけどこんな事をしたい仲ではない。
普通に、友として接していたかった。
心が苦しくて涙が止まらない。
私は如何すればいいのだろうか。
ここでもし彼を拒んでしまえば、もう愚痴を聞いたり優しくしてくれたり、そんな事をしてもらえなくなってしまうのだろうか。
こんな時、世の女性は如何対処しているのか。
そういった事に疎い私には分からなかった。

結局最後までやられる事はなく、途中で彼は眠ってしまった。
服を着ようと起き上がろうとするが、お腹にしがみついた中原さんの手を離す事はできずに、そのまま共に寝ると云う選択肢しかなかった。
起きた時にどんな顔をして彼と話せばいいのか。
ため息をつきながらゆっくりと目を閉じた。









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