太宰さんとの仲が良くなるどころかますます悪化してしまい、更に居心地が悪くなってしまった。
最近ではあまり口を利いてもらえなくなり、必要最低限の会話しかしていない。
そんなにも私が医務室で寝ていた事に腹を立てているのか。
しかしあれは好きで寝ていたわけではない。
太宰さん曰く不機嫌になった原因はそこではないらしいのだが、私には何も分からなかった。
他に原因があるのならきちんと指摘してもらわないと莫迦な私に察しろだなんて無理がある。
あの時如何して中原さんの名前が出たのかも結局分かっていない。
太宰さんの思考を理解しろと云う方が無理な話だが。
そして今日も気まずい雰囲気の中、黙々と仕事を熟していた。

重い空気が軽くなったのは少し経っての事だった。
無言で立ち上がった太宰さんは私には何も告げずに部屋から出て行ってしまったのだ。
そんなに私と同じ空間にいるのが厭なのかと思ってしまうがまあ仕方がないだろう。
彼のいなくなった部屋の空気が軽くなったのは事実だ、今のうちに仕事を片してしまおう。
そう思い熱心に書類を睨めっこしていた処に、首領直属の部下の方がやって来た。
太宰さんを訪ねてきたみたいだが生憎留守の為そう告げると首領が呼んでいると伝えて欲しいと云われてしまった。
何処に行くかも云われていないのに如何やって伝えればいいのか。
出るかは分からないがとりあえず電話を掛けてみる。
何度か掛けると漸く電話の主は出たが、用件を伝える前にこちらに来いと云われそのまま切られてしまった。
電話で伝えた方が早いと云うのに困ってしまう。
致し方ないが出向くしかないだろう。
太宰さんは地下にいるらしい、厭だ厭だと思いつつ地下へと下りて行った。

上とは違いひんやりと薄暗い地下空間。
あまりこういった場所は好きではない。
少し歩くと何やら物音が聞こえてきた。
目に飛び込んで来たのは黒衣を纏った少年の腹に蹴りを入れる太宰さんの姿だった。

「太宰さん!?何してるんですか!?」
「見れば分かるだろう、躾だよ」
「躾って…彼ボロボロじゃないですか」

蹴られたお腹を押さえながら立ち上がる黒ずくめの少年。
その足取りは覚束ない。
咳き込みながら血を吐いている。
見るからに重症のようだ。
そんな少年に太宰さんは容赦なく殴りかかる。
またもや倒れこんだ少年はそれでも立ち上がり異能力で対抗しようとするが。
太宰さんの異能力の前ではどんな異能力も役には立たない。
顔面を殴られたその少年はまた床に這いつくばった。
見ていられなくなり堪らず目を伏せてしまった。
これの何処が躾なのか。
こんなのただの拷問にしか見えない。
攻撃の手が止まったのはそれから少ししての事だった。

「なまえは私に何の用だい?」
「首領がお呼びです…」
「そうか」

床に落ちていた外套を拾うと痛みにもがき苦しむ少年には目もくれず一人地下室を後にした。
私にそんな非道な事ができる筈もなく、太宰さんが去った後少年に駆け寄った。
痛そうにお腹を押さえている、若しかしたら骨が折れているかも知れない。
医務室に運ぼうと少年に触れた瞬間触れるなと手を跳ね除けられてしまった。
しかしそう云うわけにはいかない。
目の前で負傷している人間を放っておけるわけがない。
それに彼の事は知っている。
私と同じ太宰さんの部下である芥川君だ。
殆ど会った事も話した事もないが、とても攻撃的だと聞いている。
確かに私が触れようとした時物凄い剣幕で跳ね除けていたところを見ると攻撃的だと頷ける。
けどそれとこれとは話が別だ。
今はとにかく手当が先だ。

「凄い深手だし、早く手当しないと」
「僕に構うな…ぐっ…」
「構うなって…そう云うわけにはいきません」

傷が酷いのだろう顔を歪ませながら必死に痛みに耐える芥川君。
彼の静止を振り切って何とか医務室まで運んだ。
医務室の先生に無理矢理服を脱がされると、痛々しい傷跡がいくつも残されていた。
如何やら今までまともに手当てをしてこなかったらしい。
打撲、切り傷、刺し傷、いろいろな傷が体中に残っていた。
こんなにも細い体で今まで必死に耐えてきたのかと思うと何だか涙ぐんでしまう。
私よりも恐らく幾分か若いだろう。
よく頑張ったと思わず頭を撫でてしまった。

「貴様…僕を愚弄しているのか」
「あっごめんなさい、そう云うつもりじゃなくて」

急いで手を引っ込めたが、芥川君は今にも私に襲い掛かってきそうだった。
しかし傷が相当深いのか動いた拍子に苦しそうな声を上げた。
太宰さんもこんなになるまで痛めつけなくてもいいのに。
此処まで来ると八つ当たりか何かなのかと疑ってしまう。
これは流石に躾の度合いを超えている。
下手をすれば死んでしまっても可笑しくない傷だ。
太宰さんは一体何を考えているのやら。

「貴様の事は太宰さんから聞いている。貴様のような負け犬が何故太宰さんに…」
「負け犬って…」

その通りだが面と向かって云われるとなかなかへこんでしまう。
太宰さんに、の後は何を云おうとしたのか、それ以上彼は何も云わなかった。
ただただ私の顔を睨みつけているばかりだった。
芥川君にそこまで恨まれるような事をした覚えはないのだが。
そもそも今日初めてきちんと話したのだ。
この短い間にそんなにも失礼な事をしたとは思えないが、多分。
この年頃の男の子は難しいらしい。
何だか思春期の息子に悩む母親の気分になってしまった。









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