太宰さんの部下になった事を信じたくなくて、そして如何やってこの先生きて行けばいいのか考えている内に気が付けば朝になっていた。
ベッドに座って某特務機関総司令のサングラスみたく両手を顎付近で組んで真剣に考えていた結果、一睡もしていない事態になってしまったのだ。
命じられてから数日が経ったがそろそろ限界が来ている。
本気で今すぐにでもポートマフィアから逃亡したい。
何で私がこんな目に遭わなければいけないのか、私はそんなにも悪い事をしたのだろうか。

しかしながら、莫迦な私が太宰さんから逃げる術など持ち合わせているわけがない。
如何しようもなく今日も彼の執務室へと向かうと部屋に入って早々山のような書類を渡されてしまった。
途方もない量の書類を一人で片付けろと云う事なのだ。
もちろん太宰さんが手伝ってくれる筈がない。
いつも彼はソファーに寝転がりゲームをしている時もあれば、自殺について悩んでいる時もあり、時には読書もしている。
お前も手伝えと一言云えたならどんなに楽か。
悲しきかな、私は彼の部下なのだ。
そんな私に発言権などある筈がなかった。

刻限がお昼時になった頃、漸く私は一旦山のような書類達とおさらばする事ができた。
まあ昼休憩が終わればまたすぐにこんにちはする羽目になるのだが、それは考えない事にしている。
唯一の楽しみであるお昼ご飯だ。
今日は何を食べようかと本部ビルの長い廊下を歩いている時だった。
視界がぐらりと揺れ、世界が回っているかのような錯覚に陥る。
もしかして地震か?なんて考えてみたが瞬間、私は床に倒れこんでしまった。
意識が段々遠のいてくる。
気を失う最後に目に入ったのは黒い外套だった。

吐き気と頭痛で目を開けると目の前には中原さんがいた。
一体何が如何なっているのか。
何故か体が浮いていると思ったら、彼に横抱きにされていた。
びっくりして一瞬固まってしまった。
すると私と彼の目がばっちりと合い、ため息混じりに中原さんは口を開いた。

「手前は気絶するのが好きだな」
「へ、気絶??」
「廊下でぶっ倒れてたんだよ」

如何やら私が廊下で倒れていた処にたまたま中原さんが通りかかったらしい。
放って置くわけにもいかずこうして医務室まで運んでくれているそうだ。
また彼に迷惑を掛けてしまった。
中原さんへの膨大な借りを返せる日は果たしてやって来るのだろうか。

「顔色が悪いが、太宰の野郎にこき使われてんのか」
「中原さんもご存じだったんですね…いろいろと大変でして」
「あの野郎は人を顎で使う天才だからな」

医務室へとやって来るとベッドへ私を優しく寝かせてくれた。
いつもならいる筈の先生達は留守で、恐らくお昼でも食べに行っているのだろう。
一睡もしていないのが悪かったのか、それとも太宰さんにこき使われているのが原因なのか、将又両方か。
どちらにせよ原因は太宰さんである事に間違いはない。
全く彼の部下になってロクな事がない。

「熱とかねえだろうな」

体温計を探すのが面倒だとか何とか云いながら顔を寄せた中原さんは、私の額に自身の額を当てた。
熱はないと云って離れていったが、その行為のせいで熱くなってしまうところだ。
心臓がどきどきばくばくと音を立てているのがはっきりと分かる。
無自覚でそう云う事をしているのだ、分かっている。
彼にそんなつもりはないと云う事も。
なのに鼓動は速くなったままで一向に治まる気配がない。
中原さんの前になると如何しても少女漫画のようなまるで恋する乙女みたいな反応になってしまう。
本当にこの人が私の上司だったら良かったのに。

「帰りが遅いと思ったら、こんな処で油を売っていたのかい?」
「だ、太宰さん…」

それ程までに時間が経っていたなんて気が付かなかった。
太宰さんは不機嫌そうに医務室へ入ると私と彼の前で仁王立ちしている。
如何してこうも悪い事は重なってしまうのか。
やっぱり私の日頃の行いが悪いのだろうか。
そんな筈はないと思いたいところだが、ポートマフィアに属している以上いい行いをしているとは云い難い。
当然の報いと云えば当然なのだろう。
とても不本意だが。

「手前がこいつを酷使するからぶっ倒れたんだろうが、責任とれ。」
「酷使?責任?何を云っているのか分からないな。とにかく早く執務室に戻るんだ」

太宰さんに腕を引かれびくりと体が反応した時だった。
掴んだその腕を振り解いたのは誰でもない中原さんだった。
初めて会った時みたく私を庇うように太宰さんの前へと出る。

「手前なんかにこいつは渡さねえ」
「中也如きが私に盾突こうなんてねえ。やれるものならやってみ給えよ」

昼ドラさながらとんでもない修羅場になってしまったのだった。









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