今日は珍しく仕事が早く片付いたのでさっさと帰宅してゴロゴロしようと考えていた。
しかしその願いも虚しく例のあの人に呼び出しを食らってしまったのだ。
幹部様が一体私なんぞに何の用があるのか。
正直会いたくない。
もう二度と関わりたくないと思っていたのに、如何してこうなるのか。
頭を抱えつつ超高層ビルへと足を運んだ。

厳重にセキュリティが敷かれたビル内を重い足取りで進んで行く。
要所要所に機関銃を持った黒スーツの男の人が立っている。
ここに足を踏み入れる事なんて殆どない。
そんな場所だ、とても厭な感じがする。
それに、ここには首領もいるのだ。
ますます気が重くなる。

「みょうじです」
「入り給え」

ここ最近で一番会いたくなかったあの人が扉の向こうにいた。
机に向かって如何やら書類整理をしているようだ。
一体何の用があると云うのか。
まさかまだ平手打ちの件を根に持っているのだろうか。
今すぐにでも部屋を出て走って逃げたい気分だ。

「ご用件は何でしょうか」
「そこまで大した用ではないのだけれど、君を私の部下にしようと思ってね」
「さようですか…はい?」

思わず頭に疑問符がいくつも浮かんだ。
私が太宰さんの部下になる?
何を云っているんだこの人は。
また私をからかっているのか。
私の頭がぶっ飛んでいるのか、それとも彼の頭がぶっ飛んでいるのか。
恐らく後者だろう。
そうであって欲しい。

「仰っている意味がよく分からないのですが…」
「そのままの意味だよ。今日から君は私の部下だ。用件はそれだけだ」

いやいやそれだけって。
軽く云っているけれどかなり大事だから。
滅茶苦茶大した事じゃないか。
何が如何なっているのか。
何で突然そんな話になるのかきちんと説明して欲しい。
器量が良いわけでも、戦闘に優れているわけでも何でもない私だ。
そんな私が太宰さんの部下に任命される理由が皆目見当もつかない。

「如何してって顔をしているね。理由はそうだね…君が前に自殺しようとしている人間に"生きていればいい事がある"と云っていたと聞いてね。私もその"いい事"が知りたくなったのだよ。けれど君が傍にいなければ何の意味もない。だから部下にしようと決めたんだ」
「待ってください。理由は何となく分かりましたけど、私なんかに太宰さんの部下が務まるとは思えません」
「そこは心配しなくていい。私が君を鍛えてあげよう」

ニッコリと笑う太宰さんに恐怖しか感じなかった。
鍛えるって何を如何やって。
強くなる前に私の肉体と精神が死滅してしまうに違いない。
私には絶対無理だ。

断ろうと思ったが、これは幹部命令だなんて云われたら従うしかなかった。
何たる職権乱用。
こんな事が許されていい筈がない。
鬼!鬼畜!悪魔!
折角もう太宰さんと関わる事はないと思っていたのに。
この世に神様なんていない。

「君が厭がろうが何を思おうが構わない。けどこれは決定事項だ。諦め給え」
「そんな…」

太宰さんの部下になるくらいなら中原さんの部下になりたかった。
苦労するのは目に見えているのに如何してわざわざその危険をおかさなけらばならないのか。
今すぐポートマフィアを辞めてもいいだろうか。
誰か本気で助けてください。

こうして私は実質昇進した事になった。
最下級構成員から幹部の部下になったのだ。
給料もそれなりに上がったが。
書類は押し付けられるし、虐められるしで最下級構成員の方が環境的には良かった。
天国と地獄程差がある。
織田作さんと共に小さな仕事をこなしている方が楽しかった。
確かに大きな仕事をしてみたいと望んだけれど。
こんな事を望んだ覚えはない。
私の平穏を返してくれ









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